金木犀の香り
彼岸が過ぎて、めっきり冷え込むようになった今日この頃。異常気象で暑さに参ってしまうような日が続いていたのに、彼岸を過ぎればやっぱり寒くはなるらしい。自然はすごいと言うべきか、こんな気候はおかしいと言うべきか。
いつもの路地を辿っていると、ふと甘い匂いが鼻腔をくすぐった。砂糖の甘さとも、果実の甘さとも違う、どこか不思議な甘さ。
確かこの辺に、あれがあったはず……。
やっぱり。
金木犀の木。
濃い緑の葉っぱの中に、淡いオレンジ色の小さな花がひっそりと隠れている。まだ花は開きかけで、場所によってはまだ緑色のイメージの方が強い。もう少しすれば、全ての花が開いて、香りも見た目も、今より華やかになるのだろう。たった数日の話なのに、今からそれが待ち遠しい。
なんで金木犀が好きなのかと訊かれたら困ってしまうけれど、とりあえず香りは好きだ。他の何にも喩えられない、独特の香り。考えてみればホワイトムスクも白檀も、ホワイトムスクの香りとか白檀の香り、としか説明できないし、桃の味や肉の風味だって、他に喩えられる何かがあるわけでもない。自然ってヤツはそんなものなんだと思う。
花そのものも好ましい。牡丹や百合のように大輪に咲き誇るわけではないのに、その色味でしっかり自己主張してくる。遠目に存在感があるわけではないにも拘わらず、しっかりと目を楽しませてくれる。そういう控えめなのにしっかり自分らしさを持っている感じが、見ていて楽しいし、好みに合う。願わくばそういう人生を歩みたい。
ひとしきり息を吸い込んで、思わず笑みを浮かべてしまう。ふらっと立ち寄った雑貨屋で思いもかけない掘り出し物を見つけたような、そんなワクワク感。今日は良いことがあった。きっと寝る前に思い出して、一人ニヤニヤ笑ってしまうのだろう。
明日もここへは立ち寄ろう。
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