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夢の記憶・犬の記憶

 年齢を重ねるに従って記憶力は下がる。悲しいことだけれど、生きていく上であまり重要でないことは潔く忘れてしまった方が身のためかもしれない。何か用事の途中で、あれ、次は何をするんだったかなと一瞬の記憶喪失になってしまうのはご愛嬌として。
 眠りの中で見る夢についても同様に記憶力は下がっていくのだろうか。物語の最後のとても印象的なシーンで眠りから醒め、すっかり忘れてしまった楽しかったそれまでのストーリーを、記憶の尻尾を掴んで引き摺り出したりするのは起き上がるまでにどうしてもやり終えたい大切な儀式だ。
 上手くいけば嬉しいけれど、思い出せない時は映画を見に行って途中で寝てしまい、ラストシーンあたりで目が覚めるのと同じくらい、とても損をした残念な気分になる。
 

 作業を終え外に出ると、その犬は遠くで僕を見つけゆっくり近寄って来た。久しぶりだなあ、お前元気だったか。少し戯れて手首を甘噛みし、またゆっくりと去っていく。とても利口そうな柴犬系雑種のその犬は確か三本立てくらいの夢の一本目に登場した野生児のような賢く勇ましい少年が連れていた犬だ。三本目の最後に不意に現れたそいつは、はぐれてしまった主人を探す旅の途中だったのだろうか。
 犬との再会が久しぶりだと思うくらい、この日は一本目と三本目の間にとてつもなく長い時間が経った。きっと素敵な、波乱万丈物語がそこにはあったはず。
 結局全体像が思い出せないまま、動物好きの僕にとってはちょっと切ない、甘噛みの感触を残したまま、孤独を抱えた犬との別れのシーンで目が覚めた。
 

 犬は福岡の実家にいるときに二匹、親元を離れて一匹を飼ったことがある。誰かが連れて歩く犬を眺めていると、またいつか飼いたいなと思うけれど、きっともう飼うことはないだろう。なんと言ってもやがて来る別れが強烈に辛いのだ。本当に。
 
 犬について書かれた音楽はたくさんあるけれど、やはり最初はビートルズにしよう。68年リリース『The Beatles』通称ホワイトアルバムに収録されたポールマッカートニー作の「マーサ・マイ・ディア」。ピアノのイントロが印象的なこの曲のマーサは犬の名前。犬好きポールの愛情たっぷりなとても素敵なラブソングです。

 夢で出会ったあの犬は、いつかまた再会した時に僕のことをちゃんと覚えていてくれるだろうか。
 今まで一緒に過ごした犬たちは、いつかまた再会した時に僕のことをちゃんと覚えていてくれるだろうか。

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                                          『The Beatles』The Beatles

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