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「DとIのはざまで」 #にじいろメガネ 連載(2024年7月号)

このポストは「アイユ」(公益財団法人 人権教育啓発推進センターの月刊誌)の連載からの転載です。諸事情により先方HPでの公開がなくなってしまったため、発行後にここで無料公開いたします。
試験的に投げ銭機能も設置していますが、全編が無料で公開されています。


『メゾン・ド・ヒミコ』(2005(平成17)年)という日本映画をご存知でしょうか。ゲイだけの老人ホームを舞台とした、親と子の邂逅(かいこう)を軸に展開される映画です。

ニューヨーク市には実際に、性的マイノリティに特化した老人ホームや、高齢の性的マイノリティに特化した生活支援のNPOがあり、見学に行ったこともあります。

行政サービスにおける性的マイノリティの包摂を考える時、私はいつも『メゾン・ド・ヒミコ』のような「D=ダイバーシティ特化型」と、餅は餅屋の「I=インクルージョン型」のはざまで悩んでいました。

行政が性的マイノリティの支援体制を構築するに当たって最初の難関は有資格者問題で、実際、自治体の視察で最も聞かれた質問でもありました。

性的マイノリティの当事者団体は数が少ない上に零細が多く、特定課題に特化した団体はさらに絞られます。行政では、客観的な保証がないと、当事者への理解がある団体というだけでは相談支援事業の委託が難しくなります。実際、自治体の性的マイノリティ向け相談は有資格者のいる団体の争奪戦で、性の多様性を含むジェンダー平等に取り組む委員会を持つ弁護士会に、頼み込んで実施している自治体があるほどです。

中でも頭を悩まされたのは、DV被害者支援の拡充問題でした。従来のDV被害者支援は実質的に女性想定で、男性からの相談があってっても、連携できる行政支援・民間団体・仕組みもなく、ただ傾聴することしかできない、歯がゆい経験をされた自治体関係者や地方議員も少なくないかと思います。性的マイノリティであればさらに厳しく、「同性同士、話せばわかるでしょ」と門前払いされるなど、相談にさえたどり着けない時代もあったそうです。現在も状況はあまり変わらず、残念ながら、DV被害者支援の仕組みには「加害者は(ストレート)男性、被害者は(ストレート)女性」というバイアスが残っています。

支援を必要とする人の取りこぼしは、急務の課題です。排除が発生している仕組みの再考はもちろんですが、補助金を出してでも、性のありように関わらずワンストップで頼れる、ジェンダーインクルーシブなセーフティネットをモデル育成できないものでしょうか。

果たしてDの側、つまり当事者団体の成長を待つべきか、Iの側、つまり餅屋の拡張に期待すべきか。シェルターや付き添いといった一定の運営規模が要求されることもあり、個人的には餅屋がその軒を広げる可能性(既存の行政窓口や団体の機能拡張)に期待しています。

進化したい餅屋さんをご存知でしたら、ぜひ渋谷区まで情報提供をお願いいたします。

【参考】「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(令和6年4月1日改正施行)
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/index2.html

内閣府

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