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『ヤンバルの深き森と海より』『魂魄の道』影書房発刊テーマ 『沖縄戦やアジア・太平洋戦争について振り返り、現在進められている米軍と自衛隊の強化について考える』ゲスト: 目取真俊さん 聞き手: ノンフィクションライター木村元彦さん 報告レポ-ト


 
今回の「作家と読者の集い」は、本だけでは決して伝えられない目取真俊さんの肉声の力を感じた。今まで300回以上してきた集いだが、直接、聴かせていただけることの意義をあらためて深く感じた。開催して良かった。目取真さんに、お願いし、ご縁をつないで下さった木村元彦さんに心から感謝している。

 
目取真さんが、沖縄の今帰仁(なきじん)で、祖父母や御父上、親戚から聞かされてきた戦争中のこと、当事者として体験されていること、その目取真さんの突き刺すような言葉は、沖縄を捨て石にしてきた本土の人間の欺瞞をすべて見透かしているような気がした。



 
目取真さんは、亡くなって今はいない人、小さくされてまるで最初からいない者と同じように扱われた人たちの魂を語るように話された。大日本帝国時代の日本軍という理不尽な圧倒的な暴力によって踏みにじられた人たちの無念、悔しさを誰かが、語らなければならない。言葉にできず深い悲しみを持ったまま亡くなられた方々の怒りを、生ある者が背負い代わりに伝えなければならない。
 
打ち合わせの時だった。

上間陽子さんの「海を上げる」のエッセイの話をした。小さな頃から、ひとりで歩くときには鍵の先を指と指の間から出して、米兵に襲われた時に身を守る。そんな記載があったことを伝えた、そして、沖縄の状況を聞いた。
 
「本土の方は、知らないだろうが…」と切り出され、アメリカ兵の誘いに乗って、一旦アメリカ軍の基地に入ってしまったら、数人にレイプされても、入った人間が悪いということになる、訴えたくても訴えることすらできない、目取真さんが実際に生徒から聞いたという沖縄の知らされていない様々な話を聞いた。
 
16歳の少女が米兵にレイプされた事件を外務省の上川大臣が、アメリカとの外交を控えていたせいか、6ケ月間も沖縄県知事にも教育関係者にも伝えなかった。本当なら子どもたちの安全を一番に考え、すぐに伝え、更なる犠牲者が出ないようにすることが最優先のはずなのに、それをしなかった。

そして、今度は、総裁選のスピーチで、上川大臣は、米軍の再編成、そして米軍の運用、または日米地位協定を巡る問題課題に沖縄にしっかり寄り添って米側に対しても、皆さんと力を合わせこの問題を前に進めてまいります。」と述べたという。

その時だった。

その言動について、拳を握りしめて、大声でうなるように「ふざけるな!」「女の子を守るより政治的配慮をした外務省の人間が、どの口で、それを言うのか!」と、怒りを顕わにされたのだった。

震えた。その後の少女の裁判の様子を聞いて胸が張り裂けそうになった。

沖縄の問題は、沖縄だけの問題じゃない。私たちの国で起こっていることなんだ、何とかしなければならない。



イベントの第一部で、木村さんが、目取真さんは、辺野古の米軍基地反対にも身を投じ、非暴力直接行動で現地から発信し続ける数少ない行動する作家だと紹介された。

 
木村さんが、準備して下さった令和書籍の「国史」の教科書の「特効作戦」「散華」「自決」「玉砕」という言葉の持つ意味について、日本軍が行ったことを、ご自身の祖父母の代から遡り説明された。それは、決して、たった数行では語れないことだった。




目取真さんの話はこうだ。

「本土の人は、知覧から出撃のために飛び立つその姿が最後の姿だから、桜が散る、という表現をする。一方、沖縄の人である自分の祖父母や両親は、山に隠れていて、伊江島の沖に米軍の艦船がたむろしているのを見ている、そこに、特攻機が何機も突っ込んでくる。撃沈されて、落ちる姿を見ている、あたったら万歳するが、あたることはめったにない、撃沈され、手足はもがれ、サメに食われ、五体満足の死体なんてない、そういうむごたらしい姿を見るのが、〝特攻作戦〟の事実。当時の日本軍部が、人の命をどれだけ粗末に扱ったか、これは証明なのです。それは、決して桜の花が散るような美しい姿ではない。」



目取真さんの肉親が実際に体験したことを語る、その言葉は、今まで、戦争のことを語られた書き手の誰の言葉よりも、私の心に突き刺さるように響いた。


同時に、お客様から薦められても、どうしても隆祥館書店に置くことができなかった、知覧のことを美談として書かれた絵本については、自分の感性が間違っていなかったと確信した。



 
以下は、目取真さんへの質問だ。

【令和書籍 沖縄攻防戦では中学生から….〝志願〟というかたちで学徒隊に編入された】
1.14歳という幼さで戦争に行かされた目取真さんのお父様のことについて。
2.14歳の自分を殺す相談をしていた日本軍の話を聞いてしまった目取真さんのお父さんのことについて。
3.令和書籍の従軍慰安婦の記載について
4.「自決」について
5.沖縄の加害性について
6.「希望」という小説のことについて

それぞれの質問に対して、事実はこうなんだということをあらゆる角度から証明しながら話された。それは、加害性を削除して伝えないことに対する怒りのように感じた。


イベントでも木村さんが少し話されたが、「希望」はチェコでも、紹介されたそうだ。
この小説は、1995年9月4日に発生した3名の米兵による少女暴行事件を受け、その報復として白人男児を絞殺した人物の独白で構成される。報道特集でも触れられていたが、今こそ、読んでいただきたい小説である。

目取真さんに、このような小説を書かせる、こんなことが現実に起こってもおかしくないというぐらいに、酷いことが沖縄に起こっている、メディアは、沖縄で起こっていることを、もっと報道すべきだ。



時間が足りず、文学についての話は、見送った。しかし、「希望」が載っている「目取真俊短篇小説選集 3 面影と連れて」は、売り切れた。(追加が今日入ってきた、手配して下さった影書房さんに感謝)



 
第二部では、会場の方々の質問に応えていただくことにした。

1.平井美津子先生から、「集団自決」の教科書の記載の仕方についての経緯について、

「沖縄ノート」の著者である大江健三郎氏と岩波書店を訴えている裁判で、大江健三郎さん側が、勝利したが、その時、〝日本軍による〟集団自決の〝日本軍による〟が消された。そのあたりについて目取真さんに詳しく聞きたい。


2.従軍慰安婦の記載のされ方について
3.台湾有事についての目取真俊さんの分析について


戦時中のことについて、目取真俊さんが応えられた内容は、祖父母から聞いた話や、叔母が実際に見ていたこと、そして父親の実体験だった。生き証人だった。
 



イベントの時間が押してしまい、米兵によるレイプ事件のことは、今回は、諦めようと思ったが、会場には、中学生のお嬢さんを持つ親御さん、中学、高校の先生方の顔が見えた。


勇気を出して伝え、先ほど打ち合わせの時に怒りを顕にされていたこと、目取真さんにお願いして、話していただいた。

「沖縄の人間は、米兵について予備知識をもっていても、大阪から修学旅行で来る子たちは、わかっていない。アメリカ兵と話をすると英語が上達すると思っているかもしれないが、彼らは、若く彼女が欲しくてたまらないんだ。最近タクシ-で4人ずつ乗り自由行動させる学校もあるが、気を許してはいけない。教師だったら、きちんと教えておかなければならない。取り返しのつかないことになる。」

「16歳の少女が米兵に連れ去られレイプされた事件を外務省が、ひた隠しにして沖縄県知事にも教育関係者にも伝えなかった。典型的な連れ去り事案なんです。沖縄でもげんに起こっているのだから、秋の修学旅行に向けて教師がきちんと教えておかなければならない。」



 
目取真俊さんは、沖縄と日本本土の大きく違うところとして、「本土は、空襲体験はあったかもしれないが、沖縄は、住民まで集団自決に追い込まれたことだ、アメリカからも、日本軍からも住民が狙われ、地上戦に巻き込まれた。」

「本土の人間は、中国が攻めてきても与那国や、石垣までで、大阪は大丈夫だと思っているだろう。せいぜい沖縄までだとこれが本音だろう。」

「自分の祖母は、アメリカよりも日本人(やまとんちゅう)を信用するな。彼らは口がうまいからと言っていた。辺野古の現実を見て、沖縄の現実を見てそれが、よくわかる。二度と同じ過ちを繰り返さないためには、目を背けるか、どうかなんだ。先ほど「希望」の小説の時にも言いましたが、自分がやるか、やらないかの問題である。究極はそこだ。やると決めたらやるやつはいる。」と話された。



目取真さんの怒りから、本土にいる自分自身が当事者として闘わなければならないと思った。書き手として、本気で闘うということはこういうことなんだという姿勢を見せつけられた。

直接、お会いしてお話が聞けたことに、心から感謝している。


サイン会の時に、今回のイベントも良かったけれど、次回は目取真俊さんの小説についてその深い背景を知れるイベントで企画して欲しいなど、リクエストをいただいた。
 
今回、報告レポートを書くにあたり、何度も何度もアーカイブ動画を見て、3日間かけて書いた。涙を堪えての作業だった。本屋の仕事もあり、何度も挫折しかけた。

それでも、応援して下さるお客様もいて、何とか印象に残ったことだけでも書くことができた。ぜひアーカイブ動画を見ていただきたい。そして自分事として考えていただきたい。


 
きちんと時系列で起こったことを書かれている「ヤンバルの深き森」の本は、本当のことを伝えなければならない使命がある方々、特に、教師や、メデイアの方々にぜひ読んでいただきたい。


最後まで読んでいただいた方にお礼を言いたい。

ありがとうございました。

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https://ryushokanbook.com


 



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