今、ひとりの書店主として、伝えたいこと 7月、8月と、これまで以上に廃業に追い込まれる書店が増えていった。
社長さんがいつも気にかけて下さっていたので好意を寄せていたダイハン書房の廃業のニュースは、特に堪えた。恐ろしくなった。今でもその時の衝撃を思い出すと背筋が寒くなる。
9月14日、また理不尽に思うことが、あった。
京極夏彦の新刊の発売日だった。
毎日、数百点も発刊される本を、事前に、アンテナを張って入手することは、小さな書店にとっては、生命線ともいえる。配本自体が、書店の規模で、ランク付けされているから、うちのような13坪しか無い店は、何もしないと新刊の配本すらされないのだ。
最近は事前に取次か、版元に、お願いして配本をつけていただくこともあるが、これは、発売日の2週間以上ぐらい前でないと、手続き上、間に合わない。
大型書店に当たり前のように見計らいされる本でも小さな書店には入らない。
今回は、その制度に、文句を言うつもりはない。
なぜなら、隆祥館書店では、絶対に買って下さるお客様の顔の見える本は、新刊を何十冊でも、自信を持って仕入れができるので、そこは自助努力でがんばれる。
先述したように情報を掴んでいれば2週間前に、版元さんに指定配本を、頼むのだ。普段、配本すらつかない小さな書店である隆祥館書店の主が決めていることは、己が惚れ込んで仕入れる本に限っては、「返品は、一切しない!」ということ。これは、書店人としての出版社との約束だと思っている。
なぜそれができるかは、本になる前の原稿(ゲラやプルーフ)を読み込んでいるからだ。これほど人々を感動させる本はないだろうと思った本は、イベントを企画してでもたくさんの方々に読んでいただこうと動く。過去にも売り部数が1200冊を超えている本がいくつかある。
しかしだ、売れるか、売れないか、正直分からない本には、慎重になる。隆祥館では、売れるだろうか?今回の京極さんの新刊は高額だし、予想がつかなかった。
発売日当日、朝から、「京極夏彦の本を下さい」と、隆祥館書店に来られるのは初めてというお客様が来られた。丁寧に、入荷していないことをお伝えして、京極夏彦の特集を組んでいた月刊誌、「ダヴィンチ」をお薦めしたらご購入下さった。
また、お一人、これまた、いちげんさんが、「京極夏彦の本日発売の本ありますか?」と言って来られた。お渡しすることができなかったので、事前に、頼んでおかなかったことを強く後悔した。
今日は発売日のまだ午前9時、取次に在庫があるだろうと、「TONETS V」(取次の在庫を見れるシステム、ちなみに、このシステムにも毎月10,500円払っている)を見てみた。早々に発注しようと考えたのだ。ところが画面が立ち上がって、驚いた。発売日、朝一から、トーハン(いわゆる本の問屋さんである大手取次 日本は日販とトーハンの二社による寡占状態にある)には、「在庫なし」同じ画面のブックライナーには「100以上」と示されていた。
ブックライナ-とは、発注すると2営業日後に届くシステムでお急ぎのお客様に対応するものである。但し書店の利益、定価の約「23%」から「8%」を取次が取るというものである。これは我々にとっては死活問題なのだ。発売日の朝に在庫がゼロで、本来緊急サービス用に設けられたブックライナーにすべて誘導されてしまう。これは実質、一方的な値上げではないのか。
実は、この「ブックライナー」立ち上げの際に、関西で、説明会が開かれた。先代の父も元気だった。奈良、京都からも書店が、大勢参加していた。
ひととおり説明が、終わった後だった。
質疑応答の時間、父が、おもむろに手を上げた。
「ブックライナーという早く本を届けるというシステム自体の構築は、素晴らしいと思う。けれども、いまでも我々小さな書店には、客注品が来ない。大丈夫なんですか? 本は、川上から、川下に流れる。「ブックライナー」という、取次が、マージンを8%も追加で取る川上にとって有利なシステムに、本が流れて、我々のところに客注品が、来なくなるということはないのか?そこを危惧している!!」と発言したのだ。そのあと、他の書店からも同調する声が、出た。
その時、当時のトーハン大阪支店の小倉支店長が、答えた。
「どうか、安心して下さい。既存の書店さんの客注品を、ないがしろにするようなことは一切、致しません。既存の書店さんの客注品には、これまで通り対応します。約束します、信用して下さい。」とはっきりと言明したのだった。
この言葉は、今も、私の耳に焼き付いている。
ところが、現在その約束が、反故にされているのだ。父の危惧は当たってしまった。
これまでも、取次の担当者が変わるたびに、この経緯を伝えてきたが、当時の先代たちが、亡くなっている今、「もう時代は変わったのですよ」と、言われたこともある。そのたびに、悲しい気持ちになりながら闘ってきた。
以前、他の書店の方々と話したことがあるが、ブックライナーについては8%取られるから、仕入れを躊躇する、もしくはしないという書店も多かった。
それでなくても、他業種の4割という利益率と比べて、本の利益は少ない。日本書店商業組合や、大阪はもちろん、全国の地域の組合で、利益を3割にして下さいという運動をおこなっているが、取次のしていることは、真逆である。
先日、偶然にもある会合で、トーハンの某役員に、お会いした。トーハンの中では、書店の窮状を理解してくれる側の方だと思って、今回の話を切り出した。
しかし、大阪の説明会で、小倉支店長が、約束した件については、「そんな話は、聞いたことがない。」と一蹴されてしまった。
そして、「ブックライナーには、箱代もかかっている、高いのは仕方ない、8%取っても使う書店がいるから、使いたい書店が使えば良いのです。」と言い切られた。
書店はお客様に望まれる本をお届けしたいだけであって、箱などいらない。利益を削られてもお届けしなくてはと考える書店が、どれだけの我慢を飲み込んでブックライナーを使っているのかご存じない。立食パーティーだったが、席を離れた。横にいたくなかった。
その時、感じた。取次にとって、隆祥館書店のような小さな書店は、お客様ではないのだ。
悔しかった、出版業界に入ってからずっとだ。
なにくそ、負けてたまるか!と思ってやってきたが。
その分、出版社さんとは、パイプが太くなったと感じる。出版社は、「売る意欲」と、「結果」をきちんと見てくれる。私はポリシーとして、売るという覚悟を決めて仕入れた本は、一切返品しない。
12年前から、「作家と読者の集い」というイベントを始めた。本の素晴らしさに気づいてもらいたい一心からだった。
今年、集英社の感謝会があった。11年前の2012年に、「TRUCK NEST A RECORD:NINE YEARS IN THE MAKING」という、一冊、3630円もする、インテリアの本で、イベントをした際、隆祥館書店まで、お越しくださった編集の田中さんが、挨拶に来て下さった。常務になられていた。
本当に、情熱をかけて本を創る人間と、それをその熱さのまま、読者に伝えたい本屋の主、イベントを企画し、共に頑張った最高の思い出である。
集英社新書も先に、原稿を読ませていただき、伝えなければならないと感じた本は、イベントを企画し、お薦めする、これが、日本の教育のためだと感じたら、お越し下さるお客様すべてに、お声がけしていく。この本を、一人でも多くの方々に届けたいという思いが同じなのだ。そんな中で、日本一の売り上げを出す本たちが出てくる。
講談社の大阪での研究会でも、書店のひとり、ひとりが、窮状を訴えた、その声に、真摯に耳を傾けて下さった。
担当編集の方とは、本への熱い思いを同様に感じるのだが、出版社の方々は、果たしてこのような取次の状況を、ご存知なのだろうか?
せめて、発売日の午前中だけでも、8%マージンを取るブックライナーではなく、通常在庫として、持つというふうにできないのだろうか?当時の約束は、「通常在庫を抱える桶川の倉庫に充分に在庫を持つ」ということだった。
先代たちとの約束は反故にされていいのだろうか?そんなはずはない。
当店には地域の書店にしか来られないお年寄りや身体の不自由な方がおられる。せっかく朝一番に、来られたお客様の役には立ちたかった。
今回、文章を書くにあたって、入荷配本が不利な現状をお知りになられたお客様が、さらに来られなくなったらどうしよう、取次に睨まれたら、ますます厳しくならないか、との思いもあった。しかしスタッフにも背中を押されて勇気を振り絞って筆をとった。
(15%の利益では、書店は立ち行かないところまで来ている。廃業も進むはずである)
版元の方々、普段からAmazonや、電子書籍ではなくて街の本屋を利用して下さる方々にもなぜ、本屋が次々に無くなっていくのか、理解していただくことができたらとの思いである。
経営者としては失格かもしれないが、大きな野心も無く、細々とでも店を続けることができ、地域の方に喜ばれる本を迅速に丁寧にお届けすること、それさえできれば、と考えているが、このままでは、本当に厳しい。
取次の立場も尊重したい。しかし、あまりに一方的な振る舞いに悲しくなる。共存していくことこそが、「紙の本という文化」を守ることにも繋がるのだから。
営業の努力は続けながら、ひとりでも声を上げ続けていかねばと思う。絵本「スイミー」が私にそれを教えてくれた。
隆祥館書店のホームページ
https;//ryushokanbook.com
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