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「この状態からでも入れる保険があるんですか?」CMに関する考察

保険のCM?

CMが大好きな私は先週末、物凄く興味深いトピックを発見しました。

その内容は、「『え、この状態からでも入れる保険があるんですか?』というフレーズを使ったCMを思い出したが、調べても出てこない」というもの。具体的には、CMの中で何らかの事故が起きる直前に画面が一時停止し、人が出てきて上記のセリフを繰り出すというコミカルな演出だったとされています。

保険があるかと尋ねていることから、保険会社のCMであることは有り得ます。加えて言い出しっぺとなる投稿者は、広告賞を獲ったCMが多数掲載されるACC CM年鑑にこのCMが載っていたとも記述しています。放送年代についても”90年~2010年代”とアタリを付けていました。

確かに、昔のCMだと調べてもなかなか映像が出てこないパターンはあります。個人が録画したDVDやVHSなどをひっくり返すことも想定できます。この投稿はかなりバズったため、「この状態からでも〜」と言っているCMに関する目撃情報は大量に寄せられました。

ところが、寄せられる目撃情報の内容が一貫せず、核心に至らず本当に見つかっていません。

対して、件の「この状態からでも〜」という言い回しがネットによく流通していて、知っている人が多いのもまた特徴的です。危機的状況を示す画像にボケる意味合いでこのフレーズが書かれた画像は、既に大量に出回っています。

つまり、元ネタとなる「何か」が存在する証拠としては十分足りているのです。そして、その由来が一本のCMなのではないかというこの議論に至ります。

私とて人一倍CMには興味がありますが、それでも読んだことのなかったACC CM年鑑を自発的に読んでいた人が、キャッチフレーズも年代も記憶に刻んだCMの企業名(商品名)だけをピンポイントに忘れるのか?という疑問はあります。ただし裏を返せば、それほどヒトの記憶は曖昧なのだと思い知らされます。

本当に目の当たりにしたものか

投稿者や情報提供者を否定したい気はありませんが、その”CM”が思い違いである可能性もゼロではありません。「この状態からでも入れる保険があるんですか」というフレーズになまじ馴染みがあるだけに、それがCMだったのではないかという説に触れたことで、「言われてみればあった気がする」と勘違いしてしまうことは起こり得るでしょう。いわゆる既視感(デジャヴ)のようなものだと考えられます。

そこに情報が全くない理由を「昔のCMだから」「すぐ打ち切られたから」「マイナーだから」と誰かが補足したなら、既視感にも腑に落ちてしまうかもしれません。

「言われてみればあった気がする」は言い換えれば「あるある」だと思います。「あるある」は個人が体験していなくても、あまつさえ存在しなくとも、「ありそう!」と思った地点で成立してしまうものです。

そして、私個人はそのCMに全く見覚えがありません。

それでも「あった気がする」と、多くの人が書けば書くほど「言われてみればあった気がする?」と思えてしまうのが本当に難しいところです。

「マンデラ効果」とは?

南アフリカの指導者ネルソン・マンデラが死亡した年について、事実と異なる内容を正しいと思っていた人が大勢いたというエピソードがあります。このように一人の勘違いではなく、事実と異なることを不特定多数が信じ込んでいる状態がマンデラ効果(マンデラ・エフェクト)と呼ばれるようになりました。ちなみに学術的な用語ではなく、ネットで広まっている言葉です。

つまり”この状況からでも入れる”CMが存在しなかった場合、「見たことがある」と発言した人がマンデラ効果に陥っているといえるのです。万が一そうだとしたら、彼らはありもしないCMの特徴を述べたことになります。決してわざと議論を混乱させたりする魂胆はなくともです。

調べてみると、一例として「ピカチュウの尻尾は黄色ではなく黒かった」「”千と千尋の神隠し”には幻のエンディングがある」といった話がこれに当てはまるとされています。

前者は公式がリリースしている絵を見ればすぐに正解が分かるし、”よくある勘違い”として処理できそうな話でしょう。一方後者は妙な例で、公式が存在を否定しているにもかかわらず、どんなシーンなのかディテールがまことしやかに出回っているのです。Twitterなどで検索をかけると、その通りのシーンに見覚えがあるという人の投稿がかなりの数見受けられました。ただし、写真や音声のような裏付けはないようです(※映画の話なので、あったらあったで流出騒ぎ)。

「千と千尋の神隠し」は20年以上前の作品であり、公開当時の記憶・印象が薄れてくるのも仕方ありません。その薄れた記憶の中でもここまではっきり語られることがあるという点は不思議で、同時に厄介でもあります。曖昧だからこそ何とでも言えてしまうし、他の事柄が混ざったりする余地も出てしまいます。マンデラ効果を勘定に入れると、いくら多くの人が”知っている”と言ったとしても、確たる証拠なしではどうにも断定できません。

さらにはこういう記憶の齟齬が「別の世界線の記憶を持っているのでは」というようにSFやオカルトめいた言説で受け取られることもあり、なんとも奇妙な様相を呈しています。

証拠はないが、目撃情報だけはある…”保険のCM”が取り巻く状況から、私はどつぼにはまる匂いを感じ取っています。(この状態からでも以下略)

このケースによく似たとあるCM?の存在を思い出したからです。

都市伝説

CM界隈で有名なネタとして知られているのが「ヒトガタ」です。CMそのものではなく、”エピソード”です。

その内容は、「踏切の音とともに人の形をした絵が消えていく」という内容のCMについて掲示板で情報を募ったものの、いくら情報を集めても肝心のCMそのものが見つからないというものです。

「見たことがある」「こんなCMだった」といった目撃情報が大量に寄せられ、上述の証言を再現した映像を作って公開した人まで現れました。しかし「ヒトガタ」CMの放送元である可能性のある企業・団体を洗い出そうとすればローカル企業から有名団体までばらけてしまい、全く特定できません。尋常でないほど情報が錯綜していることから、単一のCMに対して言及されたとは到底考えられず、様々な要素が混ざってしまったのではないかという説も有力視されています。

そして現在、初の投稿から10年以上経ったにもかかわらず、企業名・商品名はおろか、放送区域・ナレーションやBGMさえ確実な情報がありません。この異様さから、「ヒトガタ」は今や都市伝説として知られるようになりました。得体の知れないものは得てして恐ろしいものであり、CM好きの私にとって、これは大変気味の悪い話として染みついてしまってます。あとは興味のある方だけ、自己責任で検索してみて下さい。

確たる証拠をつかむために

検索と言えば、ググるという言葉が人口に膾炙してきた現代、大抵の情報ならば誰でも同じようにたどり着くことができます。例えばピカチュウほど有名であれば5秒もしないうちに検索は済み、尻尾も拝めるはずです。

『え、この状態からでも入れる保険があるんですか?』はそうもいきません。検索してもCMに関する情報源が出てこないというのが直接的な問題でした。ついでに目撃情報も錯綜している点が、ヒトガタにそっくりに思えます。ここまでくると「そんなものはなかった」という結論が一番矛盾しないのではないかとさえ思えてしまいます。

いえども、思い込みや勘違いの産物だと断定することもできません。人の思考は千差万別であり、他人にとっての常識が自分にとっての非常識ということは往々にしてあります。前半にも書いた「この状態からでも入れる保険があるんですか」というネタをCMと勘違いしまったのではないかという想定も、結局は仮説の域を出ません。それを証明するのは、結局本人しかいないのです。

よって、確たる証拠をつかむには投稿者本人の言葉に立ち返る他はないと考えます。目撃情報は混乱を生んでしまうので置いておいて、私なら次のステップに進むため、投稿者本人が見たというACC CM年鑑をしらみつぶしに探すと思います。

もしくまなく探して存在しなければ、初めて思い込みや勘違いの疑惑にたどり着くでしょう。ありもしない事実を事実と記憶しそれを語ることは、人間にとって起こりうるとマンデラ効果のおかげで知りました。

最後に

噂のCMがあったのかなかったのかは当然気になりますが、いっそここまでメジャーになった「え、この状態からでも入れる保険があるんですか?」というボケを生み出した人もスゴイと思ってしまいます。さらに言えば、その「コミカルな保険のCM」が存在しなかったとすれば、その人はたった一言で多くの人に強烈な”保険のCM”の幻影を植え付けることに成功したといえます。

率直に、宣伝の何倍も狂おしい伝播のカタチだと思いました。

締めに私個人の話をさせて頂きます。

去年、私は架空のCMソング「ランバダ製薬『頭痛薬 ランバダS』CM」という曲を発表しました。

いつかこの曲がネットの中で見向きもされなくなって、埋もれて、数年後の世界で…

ランバダという名前の薬が存在したような…?

頭痛薬だったような…?

変なCMが流れていたような気がする…?

誰か知りませんか?

こんな話が広まったら面白いのになと妄想してしまいました。


もし「この状態からでも入れる保険があるんですか?」が実在しないCMなら、音楽から”創って”しまいたいと思った私 Ryuseiでした。

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