エイプリルフールとは何だったのか
「4月1日は嘘をついてもいい日」
「残念!今日はエイプリルフールでした!」
「エイプリルフールに見せかけた本物の告知です!」
「入社式そのものも全部嘘ならいいのに」
「不謹慎なネタはダメでしょ」
「本当にFOOLなのは誰?」
一見すれば悪ふざけ極まる風習なのに、今やなかなかどうして風物詩の一つ。ちょっとしたユーモアの範疇で(ほどほどに)という但し書きの下、リアルだろうがネットだろうが、仲間内で冗談言い合うのはいわば”バレンタインデーにはチョコレート”とか”クリスマスにはチキンとケーキ”と同じ次元なのかもしれません。
――エイプリルフール商戦!?
時は四月。
企業やメディアが各々のネタをこぞって繰り出し、ネット上でエイプリルフール商戦を繰り広げているのも見逃せません。普段から遊び心を売りにするレジャー関連の会社ならいざ知らず、由緒正しき大企業でさえもネット向けの広報担当が嬉々として乗っかってくるケースが多々あります。一方で、乗っかるからには消費者を本気で騙さないためにも、センセーショナルでありつつもジョークだと笑ってもらえる発信の技量も試されます。そのバランスがうまくいった時、消費者がネタをネタとして楽しむという交流が成立するのです。
売り出すつもりのない商品を宣伝をしたところで”商戦”とは言えないと思いきや、ネタによってはネットニュースに載るといった宣伝効果に繋がる機会でもあり、あながち間違いではないでしょう。
むしろ「あると思った?残念、エイプリルフールでした!チャンチャン♪」で終わらず、ネタを実現させてしまうというケースさえあります。吐いた唾は呑まない精神で、エイプリルフールを商機と見据えてインパクト十分なクリエイトをしてしまう戦略が時々確立するようです。
エイプリルフールの話題からは逸れますが、そんな話を一つ想起しました。
テレビ朝日で放送されている「ロンドンハーツ」という番組で、かつて芸人の狩野英孝がアーティストデビューするというドッキリ企画がありました。ところがそれはドッキリという規模を遥かに越えていて、本物のレコーディング会社や音楽番組等々完全協力の上、ソロコンサートのための会場まで押さえるという壮大な仕掛けが用意されていました。狩野がアーティストとしての新しい名前50TA(フィフティーエー)として生み出したユニークで革新的な歌はもちろんのこと、本人も本人で「芸人としての”狩野英孝”を全て捨てて、50TAとして音楽一本でやっていきたい」とアーティストへの憧れを爆発させ、番組としても屈指の名企画となりました。
でも結局はドッキリ。アーティストデビューは狩野英孝の”勘違い”だった。
そうなるはずでした。
実際にフタを開ければ、あまりの反響で企画第二弾が放送。avexやマーティ・フリードマン(元MEGADETH)まで巻き込んで、さらに50TAはスケールアップ。その後もロンハーでは事あるごとに50TAをフックアップし続け、ついにはフルアルバム「50TA」リリースへ…。
去年にも50TAは「ラブアース」なる新曲を世に放ち、まさかの10年選手となりました。
何これ?すっごーい!
私はあのドキュメンタリーめいた企画に心を打たれて、録画したDVDを何度も見ました。50TAの歌を何十回も聴いて、50TAの一ファンとなりました。今の自分の創作活動には、多少なりとも50TAの影響が入っているのではないかとまで思います。
きっかけがドッキリだったとしても、
ここまでくれば50TAは嘘でもなく、勘違いでもなく、名実ともにアーティストです。
きっとエイプリルフールもそうかもしれません。嘘をつきたい、騙したい、困らせたいとかじゃなくて…
誰かを笑わせたい、驚かせたいと思えたなら、そのあり方はいくらでも変わります。
想像力をはたらかせたり、楽しいものをつくったり、みんなでワイワイ話したり…
馬鹿馬鹿しくて愉快な、特別な日が過ごせるような一つの機会。
そもそもエイプリルフールなんて仮説だらけで起源は分からないと言われています。
過去にとらわれず、都合いい解釈でアップデートしていけばいいと思っています。