ガムと舌
ガムを噛んでいる時、ガムを噛もうとしたら、間違えて舌を噛んでしまうことが、しばしばある。思わず「痛ッ・・・!!!」という声が漏れ出てしまうぐらいには、痛い。周りの人に「大丈夫?」と心配されるぐらい、痛そうなリアクションをとってしまうのが、悩みのタネだ。どうせならば、誰にもバレない状況で、ガムと舌を噛み間違えたいのに。
ただ、要らぬ心配をかけて申し訳ないという思いに駆られるのも事実ではあるが、そうなると、「痛み」を「恥ずかしさ」で相殺するような感じになって、あんなに痛かったのに結構忘れちゃってる自分が居る、なんてこともあるので、ラッキーと言えば、ラッキーなのかもしれない。
とはいえ、「物理的痛み」は日にち薬で日に日に回復していくものだが、「精神的痛み」は、むしろその逆で、日が経つ毎に、ジワジワと体の奥底に染み込んでいって、心身を蝕んでいくという面も無きにしも非ずなので、やっぱり、アンラッキーと言うべきなのかもしれない。
実際、(周りに心配をかけるような)類似場面に遭遇すると、必ずと言って良いほど「そういえばガムと舌を噛み間違えた時も心配をかけてしまった・・・」と思い出すことになるのだから、長い目で見れば、やはり、人が近くに居る状態でガムと舌を噛み間違えることは、アンラッキーと言うべきであろう。「痛ッ・・・!!!」というリアクションが部屋中に広がるぐらい、静寂に包まれた場所でガムと舌を噛み間違えることこそが、真のラッキーなのである。
いや、待てよ。一口に「ガムと舌を噛み間違える」といっても、シチュエーションによって、”噛み間違え方”、は異なるぞ。
例えば、人が近くに居る状況でのガムの噛み方といえば、お口が寂しいと感じた時などに、モグモグと噛むことが多い。またあるいは、眠気に襲われた際には、グリーンガム系の爽やかなガムをモグモグと噛むこともある。共通するのは「モグモグと噛む」ということだ。「クチャクチャと噛む」なんてことはまず有り得ない。なぜなら、人前だから。これでも、当たり前のマナーを、当たり前のように励行することを、僕は心掛けているつもりである。
一方、人が近くに居ない状況でのガムの噛み方となると、180度変わって来る。僕の場合、作業を行う際のテンションを上げるために、作業用BGMの音楽に合わせて、体を小刻みに揺らしてリズムを取りながら、ガムをクチャクチャと噛んでいる。部屋に自分しか居ない状況であれば、音の問題は一切気にする必要が無い。お気に入りの音楽、お気に入りのガムの噛み方。マナーなんてどこ吹く風だ。「TPOをわきまえている」といえば聞こえは良いだろうか。
しかし、この「クチャクチャ噛み」には、一つ、弱点がある。それは、ガムと舌を噛み間違えた時のダメージが、「モグモグ噛み」と比べて、3倍ぐらいのダメージ量を有することだ。
これはもう、言葉に言い表せないぐらいに、メチャクチャ痛い。メッチャ痛い。ホンマに痛い。「関西生まれ関西育ちのくせに関西人っぽくないよね。むしろエセ関西弁みたいな話し方するよね」と言われる僕が、ナチュラルな関西弁を発してしまうぐらいには、痛い。
なぜ3倍ぐらいのダメージ量を有するのかというと、単純に考えて「モグモグ噛み」よりも「クチャクチャ噛み」の方が、噛む勢いが強い点がまず挙げられる。口を開けずに噛むことと口を開けて噛むことを交互に試してもらえば分かるかと思うが、口を開けた方が、やはり、反動が効く、というのか、噛む力が入りやすい。なんとなく、アゴの力を利用している感じもある。その分、噛み間違えた時のリスクが増す、ということだ。
もう一つ、忘れてはならないのが、ロケーションの違い。先ほど僕は「お気に入りの音楽に合わせてリズムを取りながらガムをクチャクチャと噛む」と書いた。この「お気に入りの音楽に合わせてリズムを取りながら」という点が問題なのだ。これも、実際に試してもらえば分かるだろうが、ノリノリの気分でクチャクチャ噛みをすると、静止状態でクチャクチャ噛みをする時と比べて、体全体の力を利用して、ガムを噛むことが出来るのである。
「体全体の力」とは、文字通りの意味合いもあるのだが、個人的に大きな違いだと感じるのが、物理的な力よりも精神的な力、つまり、”ノリノリ”、の点にある。「クッチャ♪クッチャ♪クッチャ♪」と一定のリズムで噛むことによって生ずるテンポが心地良くなってくると、無音状態で噛んでいる時の倍ぐらいの力で噛んでいたりするものだ。
以上のことから「モグモグ噛み・クチャクチャ噛み」の違いと「無音噛み・リズム噛み」の違いが合わさることで、ガムと舌を噛み間違えた時に3倍ぐらいのダメージ量を有する、と結論付けることが出来る。
このミスをおかしてしまうと、噛み間違えた直後の痛みが凄まじいのは言わずもがなとして、パワーが強すぎるために、舌が腫れたような感じになって、同じ箇所を噛みやすくなったりする。これが地味にしんどい。普段の食生活でも、噛んで腫れた舌を避けながら咀嚼せざるを得なかったりする。あと、滑舌トレーニングを行う際も、ヒリヒリ感と闘いながら、おそるおそる取り組まないといけなくなる。そう。一番厄介なのは「噛んだ直後の痛み」ではなく「噛んだ後の日常生活に支障をきたす」ことなのである。
以上で注意喚起を終える。
くれぐれもガムと舌を噛み間違えないように。
舌はガムではない。忘るるべからず。
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