緩和と厳格化
障害福祉分野では福祉サービスを提供するために必須となっている研修や、加算を取得するための要件となっている研修がいくつもある。
私が関わっている「強度行動障害支援者養成研修」や「サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者(サビ児管)研修」もそう。
このような仕組みは国が作っているのだが、福祉サービスの質をしっかり保つために(利用者の皆さんに質の良い支援を提供するために)作られたもの。
先日のサビ児管研修の指導者研修でこんな話題が出ていた。
福祉の現場からサービス管理責任者や児童発達支援管理責任者の配置要件を緩和してほしいという要望があるとのこと。
福祉サービスを提供するには経験年数と定められた研修を受講したサビ児管を配置することが必要だが、そのサビ児管の確保が大変だからという理由のようだ。
サビ児管が辞めたりすると事業所を継続できなくなり、利用者の皆さんに迷惑がかかってしまうからと。
確かに利用者の皆さんに迷惑がかかると言われると何とかしなければと思ってしまうが、この話にはいくつかの要点が含まれている。
① 福祉現場の人材不足
いろいろな分野で人材不足が言われているが、障害福祉分野も人材不足が進んでいる。
社会全体では人材不足をAIやICTなどを活用して補っていくことが進められているが、福祉は基本的に対人援助職でありAIやICTで補える業務は他分野に比べたら限定的になるので必ず支援をするスタッフが必要。
障害福祉のサービスを維持していくために、福祉人材をいかに確保していくかは大きな課題であることは間違いない。
② 福祉サービス事業所の乱立
以前は障害福祉における事業を社会福祉法人などの限られた法人しか実施することができなかったが(サービスではなく行政措置としての福祉だった)、現在は営利・非営利に関係なく様々な人たちが障害福祉サービスに取り組むことができるようになった。
たくさんの人たちに福祉サービスが届くようになり、利用者が選べるようになったのはよかったが、放課後等デイサービスやグループホームなど一部のサービスにおいては事業所が乱立していて、定員に空きがあったり、過剰にサービスを提供したり、その質が問題視されることも多い。
事業としてうまくいかないと安易に撤退するということも生じている。
現状の仕組みとして、地域で必要な人に必要な内容と必要な量のサービスが継続的に提供されているかという視点も大切。
③ 質か量か
これまでの障害福祉サービスの規制緩和のように、緩和されると福祉サービスを提供する事業所は量的に増えやすくなるが、様々な事業所が増えて全体の質の確保が難しくなる。緩和されて競争が生じることでより良いサービスが生まれるというのが望ましいが、実際は公的な財源でやるべきことだろうかと思うような過剰なサービスも出てきたり、どんな質の支援をしても基本的に同じ報酬単価なのでサービスの質というよりも利用者の獲得が目的になりがちになる。
逆に、厳格化すると全体の質は保ちやすくなるが、事業所の量は限られてくるだろう。
緩和したり厳格化したりすることは必然的に量が質かということにつながってくる。
サビ児管の配置要件も緩和すれば確保しやすくなるだろうが、その質は必然的に下がっていくだろう。
このようなことを考えると、果たして利用者の皆さんに対してどちらがいいだろうか、これからの福祉にとってどちらがいいだろうかと思う。
公的な財源(税金)によって成り立っている福祉サービスには、社会で担うべき役割があり、福祉としてのミッションがあるべきだ。
やはり障害のある人たちに対していい支援を提供しているところに公的な費用は使われるべき。
規制を緩和することや厳格化することはこれからも課題として出てくるだろう。
しかし、規制が厳しくてもゆるくても、しっかりとした支援者や事業所は質の高い支援をきっと目指すはず。
そういう支援者や事業所が評価される仕組みを目指すことが大切だと思う。