積層式陰陽可変型護符-守破-完成までの道のり
それはカランビットからはじまった
カランビットナイフというものをご存じでしょうか?
一般的に生活していると、あまり関わりがあることもなく、使ったことがあるという方はもっと少ないでしょう。
元々はインドネシアの農具だったとも言われていますが、インドネシアの伝統的武術であるシラットで武器として使われ、そのシラットをベースとしたアクションがハリウッドなどで流行したこともあり、映画などで使われることも増えてきて、一部では知名度が上がってきたものなのです。
上記のものは、刃がついていないトレーニングタイプのもので、日本でカランビットアクションを広めたともいえるアクション映画『RE:BORN』において、ゼロレンジコンバットと共に一躍有名になった稲川義貴先生が作ったものです。
僕がフィリピン武術やシラットをかじったこともあり、多才な使い方ができるカランビットに興味はもっていたものの、刃がついていたら、どう考えても持っているだけでアウトな製品なので、トレーニングタイプ以外は持っていませんでした。
フォールディングカランビット
そんな中で、フォールディング式、つまり折りたたみ型のカランビットの動画を見て、おっ! と思ったのです。
その動画がコチラ。
シース(鞘)がなくても持ち歩けるフォールディングタイプというだけでも、なかなか興味深いのですが、曲線の刃を持つカランビットが展開する動き方と、カランビットの特徴的部分ともいえるフィンガーホール(後部の穴)を使ったら、カランビットだけでなく、ナックルダスターやブラスナックルなどと呼ばれる、拳を保護し、打撃力を強化する護身武器と組み合わせられるんじゃないか? という閃きが生まれました。
護身用具として設計するべきか?
ここまで読んでいただくとわかるように、当初は護符ではなく、カランビットとナックルダスターを組み合わせた武器寄りの護身用具として考えていました。
ただ、設計していって、刃をつけないとしても、カランビットとナックルダスターを組み合わせたものを持ち歩いていると、万が一職質された場合、下手すると危険物扱いされて没収される可能性もあります。
そこで、持ち歩いていても大丈夫なように、また、より龍音堂らしさを出すために、護符という要素も組み合わせたほうがいいだろう、ということで本格的な試作をすることになったわけです。
可変型護符の設計と変遷
自分の指を傷つけた試作第一号
変形機構をもつため、ちゃんと思い通りの動作するかどうか、まずはダンボールを切り出して、設計通りに変形するかどうかをチェックします。
何気にしっかりとした変形機構などをデザインしたことがなかったので、このようにちゃんと変形するまでは、実は結構試行錯誤していました。
変形機構が固まった時点で、護符にするための数や形、積層といった要素を取り入れて組み上げてみたものが以下となります。
こちらを組み上げて使ってみたところ、動きなどはいいのですが、指を入れる穴と穴の接点がとがってしまいいて、保護されるべき指が傷つくなどという欠点があったので、その部分を改良していくことにしました。
ちなみに、実際にこちらを使って、フィリピン武術やシラットの技をかけられると、ブレードがアクリルであっても、痛いのはもちろんですが意外と普通に傷が付くということもわかりました。
工芸品を目指した試作第二号
改良点を反映した厚紙バージョンを作り、実際に握っても問題なさそうということで、試作第二号を作ることにしました。
こちらは、シンボルを雷紋に統一することで、よりパワフルなエネルギーをもたらし、なおかつ、外側から見ても武器というよりも、工芸品としての装飾的イメージが伝わるように意図したものとなっています。
一番下のものが、試作第二号で、強度の必要な部分をステンレスに変更し、強度はもちろん、邪気などを反射する鏡という意味合いも併せ持つようになっています。
デザイン的にも非常に安定して良い感じだったので、実際に持ち歩いてみることにしたのですが、ここで問題が発生しました。
雷紋が、そもそも細くて複雑なデザインなのですが、それを積層構造によって表現しているために、凹凸部分に服や荷物が引っかかったり、それによって、アクリルが折れて、雷紋が欠けたりしてしまったのです。
模様自体が欠けてしまうというのは、エネルギー的にもイマイチになってしまいますし、何より普段持ち歩くものが、いちいち服や荷物に引っかかるというのは問題なので、ここで方向性の転換を余儀なくされたわけです。
素材の選定で悩む
試作第一号のように、アクリルにレーザー刻印だと引っかからないものの、ぱっと見ではわかりにくく、持ち歩いた時に護符として主張するのが難しくなる。
試作第二号のように、積層構造によって下の色を見せるのは、美しいけれどもひっかかる。
いっそ、アクリルを辞めてみるかということで、カーボンでも作ってみたのですが、こちらはその上に護符となる要素をのせることが難しく、強度があがるためどうしても、武器よりになるので、ある意味原点回帰して、別製品として使う方向となりました。
このときカーボン加工を頼んだことが元で、別のアイテムの制作が進むのですが、それはまた別の機会に紹介したいと思います。
そんな中、より手軽な護符を作るということで制作していた「着用型積層護符 -返風-」が完成したことで、アクリル印刷という手法を手に入れました。
ご覧の通り、返風は透明アクリルに裏面から印刷されているので、表面が多少削れても内部の模様に影響がないために、緻密な模様を表現することができるというメリットがあります。
アクリルなので、ある程度の強度はあるので、護身用具としての意味合いも満たしてくれるものとなっています。
ということで、アクリルに印刷したものをベースとして、護符を構築していくことになったのです。
七星剣をモチーフとしてデザインを組み直す
せっかく緻密なデザインが使えるのだから、護符としての要素もより複雑なものにしようと考えた時に、武器でありながらも、術具として有名な七星剣をモチーフにすることを思い立ちました。
七星剣には色々なタイプがあるのですが、基本的には北斗七星が刻まれているからこそ、「七星」剣となります。
今回は、守護破敵や、四天王寺の七星剣などを参考にして、北斗七星だけでなく、青龍と白虎、それに雲や三星といった要素を配置しています。
もちろん、それだけではなく、数や形、色を利用してエネルギーを集中放出するための仕組みもいれ、色合い的にカラフルにすることで外側から見た時の護符らしさを強調することを考えたわけです。
内部構造の変更
当初は積層護符などと同じように、アクリルと木材、銅箔を積層構造にすることでエネルギーを産み出すように構成していたのですが、アクリル印刷した場合、積層構造にするとごつくなってしまうために、別の方法でエネルギーを産み出すバッテリー部分を構築することにしました。
和紙をレーザーカットすることで、一部炭化させるだけでなく、そこにシジルを墨でいくつも書き込むことで、想念を蓄積していくのです。
一般的にシジルは自分にしか影響を与えないとされ、また、持続時間もさほど長く無いとされています。
確かにそれは間違ってはいないのですが、シジルによって自分の想念の性質をプログラミングし、そのエネルギーを放出させるために、数や形といった要素を使って長持ちさせ共鳴させていくというのは、龍音堂の基本技法のひとつとなっています。
墨や水に意味をもたせることで、術的なことに詳しくなくても、このようなやり方をするだけでも、ある程度の護符ならば作成できてしまうぐらい、しっかりと想念を込められるのがこの技法のいいところで、しっかりと黒一色になるまで墨を塗り込んでいきます。
ある意味心臓部分ともいえるので、水だけでなく和紙にも気を使って、半紙などではなく厚めの手漉き和紙を使ったため、しっかりとカットできるだけでなく、墨も綺麗に吸収してくれました。
積層式陰陽可変型護符-守破-完成!
そうやって完成したのが「積層式陰陽可変型護符-守破-」となります。
名称は七星剣をモチーフで、守護破敵の二振りを兼ねるという意味と、握りしめることで、エネルギー的にも物理的にも自らを守り、変形させることで、エネルギー的にも物理的にも攻撃的で能動的なエネルギーを発生させるという意味のふたつが含まれています。
守破に秘められた機能
要石には、生命力を活性化させるといわれている「ヘマタイト」を、しっかりと磁化させたものとを用いています。
磁化させたのは、エネルギーを強くさせるだけでなく、北を指す磁石と北極星を繋げるという意図も含まれているのです。
本体は前述したように墨で塗りつぶした上に、エネルギーを動かすための銅と炭の粉末を混ぜた和紙2枚を貼り付けたものを、アクリルで挟んだ上で、エネルギーを導くために銅箔で周囲を囲い、レジンとニスで表面加工しています。
この銅箔は、しっかりと本体を固定するだけでなく、外から見た場合の護符としての工芸品的な雰囲気、きらびやかな特別感を演出できればという想いも含まれていたりします。
ブレード部分は武器ではないので、アクリルとなっていますが、アクリルの上に木材を積層し、さらにエネルギーを導く角度に銅と炭の粉末をレジンで固めたものを充填しています。
全体のフォルムとしても、エネルギーを発生させる角度を随所に採用しているだけでなく、その部分を利用して関節にアプローチするような護身的な動きもできるようになっているのです。
ブレードの八角形部分には、太陽のエネルギーを象徴するという「ペリドット」が封入されており、本体の意匠やヘマタイトとあわせて、星と日という陰陽、天地を象徴する意味合いがあります。
このように護符としての要素も充分に満たした上で、今までの龍音堂の製品にはない、可変型であるからこそ、エネルギーの質を状況によって変えるという新しい形の護符が完成したわけです。
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やっぱり護身用具メインも作ってしまおう
達人との出会いがもう一つの製品を産む
これまでに紹介してきたように「積層式陰陽可変型護符-守破-」は、カランビットがメインではなく、護符の要素が強いとはいえ、その要素があるのは明確です。
守破を作ってきて、カーボン素材を試したときに、これならば護符ではなく、護身用具となるものも作れると思いました。
せっかくの変形機構も良い感じになり、さらに良い素材も見つかったので、護符メインではなく、可変型ナックルカランビットともいえる作品を作りたいと思ってしまったわけです。
可変型ナックルカランビットは、龍音堂の既存のお客様にとっては、必要の無い製品だとは思うのですが、個人的にそういうちょっとキワモノアイテムが大好きということもあり、守破とは別枠で設計を開始しました。
日本におけるカランビットの第一人者に見て貰う
ある程度設計が完成してきた段階で、冒頭でも紹介した、日本にカランビットを広めたといっても過言ではない稲川先生にも、この作品を見て貰いたいという想いが強くなってきました。
通常ならば、だからといって気軽に会えるような方でもないのですが、試作第一号で、実際にシラットの技をかけてくれるなど協力してくれていた友人が、稲川先生に師事しているということもあり、無理をいって仲介してもらった結果、稲川先生にお目にかかる機会ができたのです。
稲川先生専用製品を作る
せっかくお目にかかる機会を得たので、他にはない、世界に一つだけの稲川先生専用のナックルカランビットを制作しようと思いました。
通常ならばアクリルのブレード部分を、ステンレスに変更した上で黒染めにし、それ以外の部分はオールカーボン、さらに素材だけでも変化がでるようにパーツによって、平織りと綾織りを組み合わせて表面のデザインをカーボンで構成。ワンポイントとして、ナイフなどの装飾にも使われる貝殻を要石部分に配置しました。
当初、護符要素はいらないかと思っていたのですが、龍音堂らしさも必要だろうということで、魔除けとなる朱をブレード部分に埋め込み、稲川先生と縁の深い場所の湧き水、香木、桃の木を混ぜ合わせた香料を八角形部分に埋め込み、その香料でしっかりと本体を燻すといった工程を行いました。
剣術など武術にも造詣の深い、稲川先生モチーフということもあり、龍音堂が本来作るものに比べると、よりプリミティブな日本古来の邪気除け要素を盛り込んでみたのです。
そうして完成した製品を無事に先生に謹呈させていただくことができました。
稲川先生との出会いは衝撃的で、それだけでも別途色々かけちゃいそうですが、「古狼爪」と名付けた専用製品を実際に使っていただいて、「『コントロールデバイス』としていいね」というコメントもいただくことができました。
そして、いただいたコメントを元に護身用具としての、ナックルカランビットの名称をつけることにしました。
可変型制操具-禍析爪-完成!
こちらは、素材の8割がCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)で構成されたもので、基本的なデザインは変わっていないものの、細部が守破とは異なったものとなっています。
CFRPとは炭素繊維複合材料といって、炭素繊維を樹脂で固めたもので軽くて高い強度を持っているために、さまざまな分野で利用されています。
非常に軽くて強いために、守破と違ってナックルダスターとしての役割もかなり果たしてくれるだけでなく、ブレード部分もカーボンでなおかつギザギザをいれることで、攻撃力を上げています。
前述したように、素材を色々と選ぶ過程で、CFRPカットをしてみたことがきっかけとなり、別ラインでデザインをはじめて、守破とほぼ同時進行していましたが、稲川先生専用製品を作る上で、色々と方向性が固まり、最終的にこのような形となったわけです。
相手の動きをあやつり制するだけでなく、「自分に迫る禍事を断ち切る(析)爪」という意味合いで、「禍析爪(かさくそう)」と命名しました。
禍析爪に秘められた機能
こちらは、守破のように護符メインではないものの、龍音堂の製品ということもあり、エネルギー的な要素も考えてデザインされています。
細かい装飾が少ない分、ブレード部分のギザギザや積層アクリルの角度、矢印によるエネルギー的誘導などで、護符などに興味がない人でも持っただけで、ある程度エネルギーが誘導できるようにしているのです。
ただし、護符ではないのでエネルギーを保持するという部分は、少なくなっていますが、要石の代わりに黒水晶を封入することで邪気などに対抗するという意味合いを持たせています。
さらに、蓄光レジンを角度にあわせて封入することで、光を蓄積して光を発するために、暗い所でも見つけやすいような機能も持たせてあります。
龍音堂だからこそ作れる製品
龍音堂の護符は、身固を初めとして、現代ならではの素材と技術で作られています。
伝統的な護符を作れる人は多いですが、現代の風景に溶け込むような護符というのは、なかなかないので、それを目指して色々と作っているわけですが、その中で、今回の守破は変形機構やアクリルプリントなどといった、護符という括りとしては、かなり異色な技法を採用しながらも、内部は和紙に墨という非常にトラディショナルな方法も取り入れてみました。
また、今回変形機構を作る上で、今まで扱ったことのないステンレスやカーボンなどといった素材にも手を広げることができたこともあり、これらの経験は新しい製品にも活かすことができると思っています。
身固に比べると、サイズも大きく工数もかなりかかるために、それなりの価格になってしまわざるを得ないので、お手軽な製品とはなりませんが、龍音堂らしさをあらわすフラッグシップモデルとして、守破は定番として販売していきたいと思います。
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