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【ショートショート】大正浪漫

刻を知らす鐘が、夕陽に身を沈めた街にこだまする。
若草の袂は既に薄暗く、ゆうゆうとのびる陰が、少しずつ夜を誘った。鳥居の紅色も、幾分か暗い。

「今日の日暮れは、一段と綺麗やの。」

隣から、そう声が掛かる。
腰元が窮屈でたまらない、とうるさかった彼女なりの、精一杯の勇気からくる一声でもあった。
日が沈めば夜になって、また日がのぼって…を繰り返す無作為でモノクロームな日常に、ふと色がつくような感覚は、今でもぬぐえない。

夕日が落ちるまで、と言ったものの、もう半分も沈んでしまえば、街は暗くなる。ガス灯の、どこか機械的な光が街を覆うのは、何とも寂しかった。

「なぁ、そろそろ…」

「このまま。」

いいかげんに帰らなくては。と語気を強める彼女の言葉をさえぎる。

「もう少し、このまま」

彼女はもう、帰りたがらなかった。

星の瞬く空の下で、結った髪にかんざしを挿す。
彼女は、どうにも照れくさいらしかった。


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