経営リーダーシップへの一考察
私たちは誰もが自分という人生をリードする経営者です。限られた才能と有り余る情熱(?)という経営資源を武器に、最大限自分を輝かせられる場所を探しながら失敗と成功を繰り返し、成長する。
ここ10年くらいは国際大学、グロービス、事業構想大学院大学等の教育機関で経営戦略やマーケティングの実務を教えながら、ベンチャーキャピタリストとして起業家と向き合う中で、ここ数年は何にも増して「Will(意志)」の重要性を痛感しています。
そんな中、経営リーダーシップ教育に関わる方々との交流を通じて、今まで私自身が実務家として関わってきた起業とファイナンスの世界とリンクすることが多かったので、少しだけ本テーマ「経営リーダーシップ」及びそれが求められる背景について考察してみようと思います。
背景
今私たちが生きる資本主義社会の中心にある株主会社の仕組みは、大航海時代に生まれたとされています。最初の株式会社は1602年に設立されたオランダの「東インド会社」という話は有名だと思いますが、この時期、ヨーロッパでは大航海時代が進行中で、商人たちは貿易のリスクを分散させるために共同出資の仕組みを必要としていました。出資者は資金を提供し、航海の成功によって得られる利益を配当として還元される約束を受けとる。この仕組みによって、商人たちは大規模な貿易事業を実現することが可能となり、株式会社は商業の形態を大きく変えたといわれます。
大航海時代の航海型プロジェクトは、特定の期限内に成果を上げることが求められたため、必要に応じて精算することが前提でした。このプロジェクト単位で会社の設立と清算が繰り返される構造は、変化する外部環境に対応するという側面において、とても有効に機能していました。
しかし、現代の株主会社はどうでしょう?基本的には「ゴーイングコンサーン」、すなわち永続的な成長を前提としている、というのが一般的な回答かと思います。このため、特に上場企業において、企業は市場の変化に適応しながら持続可能な成長を追求することが求められているわけです。そこでこの大航海時代生まれの株式会社という形態の組織は、新たな課題に直面することとなりました。
現代の企業が直面する課題
現代の多くの企業は、このゴーイングコンサーンの前提に従い、柔軟に組織や事業形態を変化しながら成長することが求めらる一方で、遅々として変革を進められない状況に陥っています。これは特段不思議な話ではなく、組織が人の集合体であり、生存機能としての人の本能が「現状維持」を好むからです。日本においてはカルチャーとしての「不確実性回避傾向の高さ」(学術的にも証明されている)が、この傾向に拍車をかけているといえるでしょう。
この結果として、市場と企業との間のギャップは拡大し続ける運命にあります。急速に進化するテクノロジーや消費者ニーズの変化に対して、強い意志を持って変革を続けなければ、市場での競争力を失うのはいうまでもありません。
「組織の賞味期限」と「経営リーダーシップ」
こうした背景から、組織には「賞味期限」があるという専門家もいます。日本には100年以上続く企業が世界でも最も多く存在しているといわれますが、成長という観点でみると、おそらく上場市場にとどまり続けられるレベルの100年企業はそう多くないのではないでしょうか。
この賞味期限を延ばすためには、組織を意図的に変革させ続ける強い意志と計画が不可欠なわけですが、これができるものが「経営リーダーシップ」であるというのが私の考えです。
どれほど優れた戦略が存在しても、強い意志や動機がなければ、組織はとても自然な形(人間の本能に従って)でその戦略を形骸化させてしまいます。経営者が変革の重要性を理解し、自らが先頭を走りながら組織のメンバーをその方向に向かわせることが求められているのです。
しかし、既存事業で成果を上げながら昇進を重ねていった人、もしくは自らが立ち上げた思い入れのある初期事業によって成功を収めた起業家にとって、経営の役割が時に既存事業を否定することが必要であるという事実を、感情的に受け入れがたいものです。
こうした状況では、リーダーが内省し、変革に向けたマインドセットを構築するためのプロセスが必要です。これが欧米において、エグゼグティブ・コーチングのニーズが大きくなっている背景にあると私は考えています。
リーダーは育てられるのか
では、そもそも、こうした変革のためのリーダーシップは後天的な教育によって身につけることができるのでしょうか?
これは多くの教育機関にとって大きな課題といえるでしょう。
私の知るあるリーダーシップ教育の権威はこう言いました。「リーダーは”なる”ものであって、意図的に”生み出す”ことはできない」と。
神話学者ジョーゼフ・キャンベルが示したように、英雄は旅に出て、試練に立ち向かい、それを乗り越えることで日常に帰還する。このプロセスを自分自身で経験すること以外に、リーダーになることはできないと考えると、教育機関が果たすべき役割とは何なのか?
これは私が今後取り組みたい大きなテーマの一つです。
またどこかで書いてみたいと思います。