【 Tinymemory 4 】
ある日
長年のダチが僕につぶやいた
「愛しているのか?」
あいつはいつもそうなんだ
僕が何も話さなくても
まるで心を見透かすように
それでも口出しせず
たださりげなくぽつりと言うんだ
僕は無言のまま
ビールを飲み干した
あいつはタバコを取り出し
僕に差し出した
煙が空間を漂う
居酒屋のざわめきが
一瞬静寂をおびる
それで僕達は通じるんだ...
冬の夕暮れ時
彼女と海に行った
誰もいない浜辺を
彼女とゆっくりゆっくり歩いた
コートの裾をそっとつかんでいた彼女が
ふとその手を離し
僕の前を音もなく歩き出した
ゆっくり ゆっくり
細いスカートの裾が
潮風にゆったりなびく
声の届く距離まで離れた彼女が
ふと立ち止まり
波打ち際を見つめている
寄せては返す波に
彼女が笑みをこぼす
そしてこどものように
波を追いかけ
波から遠のく
彼女が僕を振り返り
その瞳に優しさをたたえて
一瞬時が止まった
そしてゆっくり
水平線に目を移す
不思議なスローモーション
彼女の視線に導かれて
その視線の先に目をとめると
そこには
夕日に赤く染まっていく
音なき海が僕を待っていた
彼女は小さな女の子の写真を
胸にそっと抱きしめ
夜のとばりがおりるまで
その瞳に優しさをたたえたまま
静かにたたずんでいた
彼女の面影は
いつもセピア色に染まる
今でも変わらず...