1人の人間なのに0
「のいちゃんが産まれてきたときはこれだったの?」
車で保育園に送っているとき、先週4歳になったばかりの娘が人差し指を一本立てながら聞いてきた。我が家にはこの娘と、2週間前に産まれたばかりの息子がいる。
「ううん、のいちゃんが産まれてきたときはゼロ。1歳の前は0歳。ゼロは何もないってこと。」
僕はグーの手をしたり、人差し指と親指で0の字を作ったりしながら答えた。
娘はきょとんとしたまま固まった。人間って理解不能な概念に出会うとたぶん皆こんな顔になるんだろう。
4歳児にはまだ0の概念は難しいよなあ。でもたしかにおかしいよなあ、産まれた時点で1人の人間なのに0って、ひどい話だなあ。無事に保育園に送り届けた後も、運転しながらそんなことをぐるぐる考えていた。
その日の午後、職場で意味不明なプログラムのコードを見つめながら、僕は今朝の娘と同じ顔をしていたと思う。
0歳だった赤ちゃんはだいたい1歳になるくらいから歩き始める。自分で歩けるようになって、自分でものを取りに行くこともできるようになる。ご飯を食べたり、言葉のようなものを喋り始めるのもこの時期からだ。
1歳から1人でできることが格段に増える。自分のやりたいことができるようになる。なるほど、そう考えるとその時点でやっと0(存在していない)から1(この世に存在している)になるってわけかー。なるほどなるほど。
と、でたらめな理論を考えて1人で納得した。
自分の今の年齢にも0がつく。0の前には3。iPhoneのリマインダーには「31歳までに◯◯◯」と目標を書いて毎朝通知するようにしている。30歳になった去年、ふと自分が本当にやりたいことは何かって考えて、目標を立てて実践してきた。人生の途中の準備期間。
そう考えると人間は0が付く歳にまた0歳児に戻るのかもしれない。準備して、0の次に1が付いたら、また歩くことができるようになる。
子供たちにとっての1年は永遠のように長いけど、大人になったらそれがあっという間だ。それに子供は1年前と今を比べると、できることの幅が全然違う。
大人はどうか?1年前と比べてなにができるようになった?
僕の好きな本の中に「仕事は楽しいかね?」という本がある。その中で一番好きな言葉『今日は昨日とは違う自分になる』
1年後に焦らないために、毎日この言葉を繰り返す。今日、君は何ができるようになった?
10年後にまた、0が付く歳になったら、彼は、彼女は、僕は、次は、何の準備をしているのかなあ?今度はどんな0歳児になっているのかなあ?
その夜、娘が広告の裏になにやらボールペンで一本線を引いて言った。
「パパ見て!「1」書けるようになった!」
Photo by ryumachi3 from Instagram
スキとかフォローとかしてもらえたら僕は幸せです。