第54話 成功への道
「積極的心構えが何よりも大事なんだよ」
次の日、友達は朝から語っていた。
「同じように営業して回っても、同じ地域を回っても、積極的な心構えで営業するのと、消極的な心構えで営業するのでは、明らかに結果が違うんだよ」
「確かにそうだな」
みつおは感心しながら聞いていた。
「ま、その理屈は分かるんだが、実際に毎日積極的な心構えを保つのが大変じゃない?頭では分かっていてもどうしてもテンション低い時はどうすればいいの?」
「おぉ、いい質問だね、実はそこが一番大事な課題だよ、だけど俺はそれ毎日保つ秘密を知ってるんだよ」
「何?そんな秘密があるの?教えてよ」
「知りたい?」
「知りたい、何?」
「簡単には教えられないよ」
「何でそんなにもったいぶるんだよ」
「もったいぶってるんじゃなくて、簡単じゃないってことよ、今言ったからって明日から簡単に積極的な心構えになるような魔法ではないからね」
「確かにそうだけど、秘密って何?」
みつおはとにかく、その秘密が知りたかった。
「実は、毎日積極的になれるようなプログラムがあるんだよ、それを毎日車の中で聴きながら出勤するだけで朝から積極的になれるってこと、そのプログラムが秘密だよ」
「おぉ、そんな凄いプログラムがあるの?俺にも貸してよ」
「は?その心構えがすでに消極的なんだよ、俺はそんな凄いプログラムならすぐに欲しいと思って購入したんだよ、成功するための投資として、でもそれをタダで借りようという消極的な心構えでプログラムを聞いても何の役にも立たないよ、最初が間違っているから」
「そうか、確かにそうだよな、分かった俺も買うよ、どこで売ってるの?」
「そんな簡単に売ってるわけないだろ、まずこの情報自体がほとんどの人には届かないんだよ、仮に届いたとしても金額を聞いてすぐに尻込みするよ」
「えっ?いくらなの?」
みつおはせいぜい1万円くらいだろうと思っていたのだが、高いと聞いただけで尻込みしてしまった。
まさか、10万円くらいするのだろうか?
恐る恐る金額を聞くと
「まず最初の基本であるベーシックのプログラムで43万円」
「えーーーー?」
みつおは予想をはるかに超えた金額で目ん玉が飛び出るくらいビックリした。
「お前、これくらいでビビってどうする?このプログラムを活かして月100万円くらい稼げるようになったら安いと思わないのか?」
確かにその理屈は分かるのだが、でもプログラムを40万円で買うというのはかなりの抵抗があった。
みつおが買った車と同じ金額である。
プログラムで車が買えるってことじゃないか
価値観をすり合わせるのにしばらく時間がかかったが
「俺はさ、人とは違うと思っているんだよね、人と同じなら無難に就職して、無難に結婚して、無難に子育てをして世間的な幸せを手に入れたらいいけどな、俺は人とは違うと思っているから、人とはちがう事をやるんだよ、普通の人はこんな高価な成功プログラムなんて買わないよ、本屋で売っている成功哲学の本で充分じゃないか?でも俺は人とは違うから、人とは違うくらいの成功がしたいんだよ、だから人とは違う成功プログラムを手に入れたんだよ」
その友達の熱弁によって、みつお気持ちが動いたのだった。
長いスパンで考えたとき、今ケチってプログラムを買わなければ、40万円という高額なお金を失わずに済むが、今の流れのまま将来も続くってことである。
しかし、今40万円を投資してプログラムを買って、その成功プログラムを身につけ成功することができて、月収100万円を達成したなら、すぐに元をとることができる。
「決めた!プログラムを買って月収100万円だ!」
みつおはプログラムを買う決心をしたのだった。
お金の工面でかなり苦戦したが、「絶対に途中で諦めない」という言葉を胸に粘ってようやく手に入れる事ができたのだった。
そのプログラムは、アメリカで名を残した成功者達が実践していた事をプログラムにしたものだった。
世の中の成功哲学の原点ともいえるような凄いプログラムである。
「キターーーーーーーッ」
ついに念願のプログラムが届いた。
みつおははやる気持ちを押さえながら、丁寧に包装を剥がして箱を開けた。
タラララッタラー🎵
と音楽が流れそうな瞬間である。
こんなに高価な物を買った事がないみつおにとって、初めての新鮮な経験だった。
ワクワクしながら、第1巻のカセットテープを取り出した。
当時はCDはまだ普及していなかったので、カセットテープで聞くタイプのプログラムだった。
第1巻から13巻まであるテープを順番に毎日聞いているだけで、人の脳が成功体系の脳に生まれ変わるのである。
人は、習慣の生き物だが、その習慣は脳で形成されているのである。
成功する人は、成功体系のシステムになっているので、無意識のうちに成功に大切な習慣が身についているのである。
例えば、何か上手くいかないことが起こった時に
「しまった、失敗した」
と思ってしまう習慣の人と
「これで上手くいかないということは、他にもっといい方法があるのかな」
と考えてしまう習慣の人がいるのです。
失敗したと決めてしまうと、失敗で終わってしまうのです。
失敗ではなく、それでは上手くいかないという方法が見つかっただけだ!
これは有名なエジゾンの言葉です。
つまり、上手くいかない方法を発見したことは成功なのです。
エジゾンは、何万回も失敗した後に成功したのではなく、何万回も上手くいかない方法を発見し、何万回も成功したのです。
そのプログラムでは、エジゾンやフォード社の創設者であるヘンリー・フォードのエピソードを紹介しながらそのノウハウを分かりやすく説明していました。
そのようなエピソードを含め、的確にまとめられたプログラムを毎日聞くことで、自然と成功脳になり、成功者の習慣が身につくというプログラムなのです。
みつおはとにかく、このプログラムを購入したことでテンションが上がっていた。
さっそく車のカーステレオで聞きながら出勤した。
「おぉ、なんか成功者の顔っぽくなってきたな」
友達は、みつおのプログラムが届いたのを聞いて冗談を言ってきた。
しかし、みつおには冗談ではなく本当そんな顔になっている気がしていた。
朝のミーティングが終わり営業へ出かけるときもいつもとは違ったテンションで出かけることができた。
嬉しがりのみつおは、営業でまわる地域についてからも、しばらくプログラムを聞いてから
「よっしゃー、行ってみよう」
と独り言で気合いを入れてから訪問営業を開始した。
「こんにちはー、ごめんくださーい」
不思議な事だが、今まで不調と思いながらまわっていた時のお客さんの対応と、テンションが上がってから訪問するお客さんの対応が全然違ってきたのだった。
今まではうっとぉしそうに、怪訝な顔をして断っていたのだが、その日のお客さんは、断るにしても仲良く話をする事ができたのだった。
今までだったら、断れ続けると気持ちが滅入ってしまっていたのだが、プログラムが届いてからは、断られても断れても
「次の家は大丈夫かもしれない」
「ここじゃないんだ、じゃ別の家で俺を待っているかもしれない」
などと、勝手に自分の都合の良い方向に考える事ができるようになっていたのだった。
営業マンをやると言った時に、ほとんどの知人が
「お前は口下手だから営業には向かないよ」
と言っていた。
そして自分でも営業は向かないと思っていたのだが、お金に目が眩んで営業をすることにしたのだった。
長くは続かないと思っていたのだが、気がつけば最高に面白い仕事になり、自分の天職だと思っていた。
そのプログラムが来てからさらに飛躍することになったのだった。
ある朝のミーティングで
「俺は2月から会社を立ち上げてるんだけど、今年の売り上げ目標は1億円なんだよ、だから半分の5000万円を売上げたら、お前を共同経営者にしてやってもいいよ」
と提案してきた。
「5,000万円? ということは、10%のマージンだから、500万円? スゲー、やる!」
みつおが始めたのは6月からだった。
半年で5,000万円を売り上げたら、マージンは500万円もらえるってことである。
半年で500万円なら、1年で1,000万円だ。
みつおは、ただただマージンだけを見て喜んでいたのだった。
そして、次々と契約が決まっていった。
ここでは、まだ2人で事務所もなく架空の会社だったので、給料日というのはなく、決まった物件が終わって、集金まで終わったら、その日に10%のマージンがもらえるのだった。
だから、早く工事を終わらせたら早く貰えるので、毎日現場に寄って、お客さんと顔を合わせながら、進捗状況を確認し、職人さんと仲良くなってなるべく早く終わるように話をするのだった。
集金が終わると友達とファーストフード店で待ち合わせ、お金を渡してマージンを貰い、そのまま夜の繁華街へと向かい2人で飲み明かすのだった。
みつおが入ってから2ヶ月目には、正式に事務所を借りて、ようやく会社らしくなったのだった。
3ヶ月、4ヶ月と経つと、みつおはドンドン実績をあげ、世間で騒がれていたバブルの時期のように、みつおのバブルが始まった感じだった。
あまりにも営業が面白くて、パチンコは完全に興味が無くなっていた。
パチンコで2時間使うなら、営業でまわった方がよっぽど面白いのである。
2時間で見積もりアポが取れてそれが決まれば、平均30万円のマージンになるからだ。
ギャンブルよりも多くのドーパミンが出るのだった。
ようやく成功者に近ずいている感覚があり、高揚した気分が続いていたのだった。