第63話 独立


『総合住宅リフォーム MK企画』

「できた!」

悩みに悩んだ挙句、自分のイニシャルを会社名にすることにしたのだった。
それがシンプルだと思ったのだ。
営業で回るときに言いやすい方がいいのである。

以前の営業で回っていた時に見つけた名刺屋さんで名刺を作ってもらった。
この営業は名刺が商売道具である。

この商売に欠かせないのが、事務員代行の会社だった。
当時はまだ固定電話の方が信用があったので携帯電話でビジネスをすると怪しまれたのである。

月々3,000円で代行をしてくれるのなら安いものである。
そこで契約をすると、みつおの電話番号からの転送で電話がきたときに

「こんにちは、MK企画でございます」

と、いかにも事務員がいるようなイメージを与えるので信用されるのである。

「あぁ、前回きた金城さんいる?家のことで相談があるんですけど」

と電話がくると

「すみません、金城はただいま外回りで出ておりますので折り返し電話させますね、お名前と電話番号を教えてください」

と、事務員の代わりに受け付けて折り返しの電話をみつおにくれるのである。

そして、直接お客様に電話をして、見積もりに伺うというパターンだった。

前の会社でやっていた事を自分でやるだけである。以前に仲良くなった下請けの会社はあるので、あとは営業を頑張って取ってくれば、利益は全てみつおのものである。

つまり、前の会社で例えると売り上げの50%の利益が残る仕組みである。
200万円の物件なら、100万円が利益である。
営業マンを雇って10%払ったとしても80万円残るのである。

前の会社では凄い利益が残ったはずなのに…

考えても仕方がないので、そこに思考を回すのはやめていざ営業開始をしたのだった。

「おはようございます」

「仕事はどんなか?」

「まだまだこれからだけど、よろしくお願いします」

そこは同級生の理髪店だった。
飲み屋で働いていた時に偶然に会ってから、2ヶ月に一回はこの理髪店で髪を切っていたのだった。

髪を切るのは2ヶ月に一回だが、ほぼ毎日のように通っていた。
カウンターでコーヒーを飲みながらおしゃべりをしていたのである。

そんな時に仕事の話になり、カラオケハウスでの出来事や近況を報告しながらアドバイスをもらっていたのだった。

同級生でありながらしっかりしているので頼りになるなる友達だった。

「今度自分で営業会社を立ち上げようと思うんだ」

そんな話をした時にいろいろと質問され、事務員代行の会社の話や名詞の話などを説明したのだが

「じゃ、実際はどこにも事務所を借りないでやるのか?」

「そうだね、今はとてもそんな余裕はないよ」

というと

「じゃ、ここ使えば?」

「えっ?ここって?」

裏のヤードが空いてるだろそこに机とイスを置けばオフィスになるんじゃないか?」

「えっ?いいの?」

「どうせ空いてるし、ゴルフパットの練習しかしてないからね」

そこは大きなコンビニ後の物件だったのでかなり広かった。髪を切るためのスペースと待合のための大きなカウンターがあり、その後ろは仕切りがされて、ドアを開けると何もない空間が広がっていた。
そこにパターの練習用のマットが引かれているだけだったのである。

「マジで?ありがとう、机があるだけで立派なオフィスになるよ、使わせてもらいまーす」

みつおは遠慮なく使うことにしたのだった。
そこに電話を引いて、会社の電話番号として名刺に書いたのだった。

それからは堂々と毎日出勤するようにしたのだった。
とりあえず机の上に必要なチラシや名刺などを置き、そこから営業に出かけるというスタイルだった。

「おはようございます」

みつおは朝までカラオケハウスで働いているので、出勤は午後からだった。
夏場はとくに暑いので、営業は夕方まわるのが一番でおる。
沖縄の夏は夜の8時まで明るいので、営業でまわっても違和感はないのだった。
しかし、なかなか簡単には取れなかった。

「お兄さん、防水とペンキ塗り替えは今はやらないけどね、ちょっと床が凹んでいるのよ、全部は無理だから部分的に取り替えってできない?」

大きな営業は取れないがちょっとした補修の相談をされることが多かったので、みつおは自分でやる事にした。
今までの会社では、小さな仕事は全部断っていたのだが、自分でやれば小遣い稼ぎになると思ったのだった。

「君、いいところにきたね、家の門が壊れてるんだけどさ、どうにかならないかなぁ」

「えっ、ちょっと見てみますね」

見ると、門柱の下の方が欠けていた。
モルタルで補修すれば直りそうである。

「はい、いいですよ、僕がやりますよ」

そう言って、自分の日当分と材料代を足した見積もりを提出して、仕事をもらい自分でやっていたのだった。
基本、ある程度のことは型枠屋にいた時にやっていたので、自己流で何でもこなしていた。

大きな利益にはならないが、日銭が入るのは嬉しかった。

そうやって仕事をこなしながら夜はカラオケ屋のバイトを続けていた。
気がつけば、リフォーム屋から便利屋になっていたのだった。

前みたいに大きな稼ぎにはならないが、安定して収入があるのは安心感があった。
そのせいか、営業に命をかけるという意気込みは無くなっていた。

しかし、本当はそんな悠長な立場ではなかった。実はある金融機関から多額の借金をしていたのである。
それは…

どうしても欲しかった成功哲学のプログラムを買うために、多額のお金を借りたのだった。
それを知った兄貴は

「お前、自分だけお金借りないで俺の分も借りてくれよ」

と迫られたのだった。
みつおは、プログラム代金の他にちょっとゆとりを持って借りようと思っていたのだが、兄貴の分を合わせて借りるハメになったのである。

「自分が借りた分の返済はちゃんとやれよ」

「分かってるよ」

そう言っていた兄貴だったが、半年くらいはちゃんと返済分をみつおに渡していたのだが、その後消息がつかなくなってしまったのだった。
それで、結局は自分の分と兄貴の分もみつおが毎月返済していたので、かなり多額な借金返済のため、給料だけじゃ間に合わなくなっていたのである。

そこで、独立を決心したのだが、目先のお金の方がありがたいので、小さな仕事の方が嬉しいのは正直な気持ちであった。

しかし、いつまでも楽にならない生活にウンザリしたみつおはある事に閃いたのだった。

それは…

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