『龍と私と彼女の話 その9』
「お疲れ様でーす」
「お先に失礼しまーす」
会社の仕事を定時に終えて
私と沙織はそのまま真っ直ぐ自宅に戻り
2泊3日の旅の支度を整えて合流した。
いよいよ連休に入った。
明日から2泊3日の予定で
諏訪湖へ行くのだ。
いったいどんな出来事が起きるのか
まったく想像も付かないけど
きっと何とかなるんじゃないか。
そんな氣もしている。
なんたって、沙織が一緒にいるからね!
「ちょっとちょっと!
私に丸投げしないでよ。
今回の旅は、琴音
あんたが重要な役目をするんだからね!」
「えええー(汗)
だって何をしていいか全くわかんないし・・・」
「使い方、ダウンロードしたでしょ?」
「したわよ、したけどサ。
どういう時に使うとか
何をしたらいいとかよく分かってないっていうか」
沙織が今回もレンタカーを借りてくれて
早朝に諏訪湖へ行くというので
ファミレスで夕食を取りながら
これからのことを話し合っていたのだ。
沙織は注文したハンバーグセットが目の前に来ると
目をキラン☆とさせながら
さっそくハンバーグにフォークを入れた。
沙織と私の氣が合うのって
お互いに食べることが大好きってこともあるんだよなあ(笑)
私も大好きな明太子パスタを食べながら
ふと氣になっていたことを聞いた。
「ねぇ、龍が封印されてるんでしょ。
ってことはその龍がなにか人間に対して良くないことをしたとか
そういうことがあったりしたのかな」
沙織は食べる手を止めて私をじっと見つめた。
そしてふるふると首を降る。
「そうとも言えないのよ。
この間、どんな龍が封印されているのか
アクセスしようと試みたんだけど
まったく反応しなかったの。
というか反応出来なかったのかも知れないわ。
それだけ弱ってるんだと思う。」
そしてため息をひとつついてこんな話をしてくれた。
「前に日本中の龍が死んでいるって話したわよね。
それって実は封印されて死んだ龍もいるのよ。
宮古島では人間の欲望のために
古くから信仰を集めてきた龍を封印していたこともあったの。
いや、今もあるのかも知れない。
だから諏訪の龍も、もしかしたら
そういう理由があったかも知れないわ。
行ってみなきゃ分からないんだけどね。」
そうなんだ。
人間の身勝手な欲望が
自然神である龍を邪魔者扱いにしていたなんて
悔しかっただろうな。
諏訪の龍もそうだとしたら
早く解放させてあげたい。
そういうと沙織は
「いい?龍を目覚めさせるって
相当の覚悟が必要なの。
封印されていた龍ならなおさらよ。
どういう状況かは現地に行かないとわからないけど。
弱っていても龍だから
そうとう怒っているんじゃないかな?ってのが
私の見解よ」
変に同情するとか
氣持ちに入れ込み過ぎるのは良くないことなのだと言う。
私にはよく分からないけど
自分の身を守るために必要な意識なんだって。
とにかく今は食事に集中しよう!
いま自分たちに出来ることからやるしかないもんね。
一通りお腹も満たされて
ドリンクバーでコーヒーを入れた私は
沙織に聞いてみた。
「ここから諏訪湖ってだいたい4時間くらいでしょ?
真夜中に着いちゃうんじゃない?」
沙織も同様にコーヒーを飲みながら答えた。
「長野道へ入る手前の諏訪湖ICで降りるんだけど
その手前にサービスエリアがあるの。
そこで明け方まで時間調整しようって思ってる」
サービスエリアはコンビニもあるしトイレもあるし
時間調整にはもってこい。らしい。
祈りには時を選ぶ。というものがとても大事で
とくに慎重を期する祈りのときには
早朝の時間がよいことが多いらしい。
が、早すぎても良くないし
遅すぎても良くないから
沙織センサー(?)でその時のベストタイミングで
祈りを捧げるのだそうだ。
きっと沙織は今までも
こんな風に高速道路のサービスエリアで
時間調整とかしてきたんだろう。
なるほど。
旅慣れてる人は違うなあ~。
「今から出れば12時前にはサービスエリアに着けるから。
車で寝られるようにネックピローも準備してあるわよ」
何から何まで準備万端らしい。
頼もしい(笑)
私たちは早々にファミレスを出発して
そのまま中央自動車道を走り始めた。
翌朝、サービスエリアのトイレで
歯を磨き、顔を洗って
私たちはコンビニの淹れ立てコーヒーを飲んでいた。
「5時ね。ちょうどいい時間だわ」
「そうなの?」
「まずは諏訪大社上社本宮へ行くの。
その土地の大神さまだから
ご挨拶も兼ねて情報を教えてもらおうと思ってね」
諏訪大社上社本宮は
24時間誰でも参拝出来るのだそうだ。
ただし社務所や宝物殿などは
開館は9時だから、御守りなどを買いたいときには
その時間に合わせないといけないらしい。
今回は単なる参拝ではなく
封印された龍の目覚めを助けるためなのだが
なにぶん情報量が少ないので
大神に助力してもらう必要もある。
コーヒーを飲んだ私は
少し頭がスッキリして
この先にある私の初仕事(?)に
否が応でも緊張してきた。
諏訪大社上社本宮は
諏訪ICからそれほど離れていなくて
あっという間に駐車場に着いた。
まだ人氣のない早朝の神社は
ビシッとした空氣感に包まれていて
ちょっとだけ怖い感じもする。
沙織は前にも来たことがあると言っていたので
迷うことなく参拝所までスタスタと歩いていき
お賽銭を入れ、お詣りの作法をする。
私もそれにならって同じようにしたけど
チラッと隣の沙織を見ると
まだ手を合わせたままじっと動かずにいた。
確かに他の参拝客がいたら
長い時間ここにはいられないだろうから
早朝に来るのはそういう配慮もあるんだろう。
しばらくそのまま手を合わせていると
弊拝殿の方からブワッと強い風が吹き付けてきた。
諏訪の大神さまがやって来たのだ。
『私を呼んだのはそなたか』
「ありがとうございます。
私は芦ノ湖の主の遣いで参りました
沙織と申します。
こちらは琴音。
本日は大神さまにご挨拶を申し上げると共に
封印された龍について
お伺いしたいと思って参りました。」
『諏訪の龍神が芦ノ湖の主に頼んだことだな。
存じておる』
「ありがとうございます。
箱根の大神さまからも剣を授かって参りました。
けれどどこに龍が封印されているのか
まったく分からなかったので
諏訪の大神さまにお伺いしたいと思いました」
『あれは・・・かなり弱っておるぞ。
下手をすれば障りを被ってしまうかも知れぬ。
だが・・・』
諏訪の大神さまは琴音を見て
『その剣があれば大丈夫だろう。
しかし、そなたたちの護りをさらに万全にするために
もうひとつ良いものをやろう』
「良いもの・・・・ですか?」
諏訪の大神さまはすっと後ろを指さして
『前宮の水を汲んでいくが良い。
その水が穢れを清める力となろう』
「ありがとうございます!
ご助力を感謝申し上げます」
私たちは深く頭を下げた。
『龍神が封印されているのは
M神社の裏手の祠だ。
いけばわかるだろう』
そういうと諏訪の大神さまは
すぅーっと消えてしまった。
駐車場に戻りながら
「前宮のお水を汲んで行けば良いのね?」
私が言うと
「そんなこともあろうかと・・・」
沙織は車の後部座席から水筒を取り出した。
「じゃん!」
「うわぉ、やるぅ~!」
「本当は前宮のお水を汲んで
飲もうかと思って持ってきたのよ」
テヘヘっと笑う沙織。
そういうとこ、私と氣があうよねw
前宮の御神水は
拝殿の近くを流れている小川だった。
私たちは水筒にお水を汲んで
ついでに川からお水を手ですくって飲んでみた。
冷たくて美味しい!
もちろん前宮さんにも手を合わせて
ご挨拶をした。
さあ、諏訪の大神さまから教えてもらった
M神社を探さなくちゃ!