『龍と私と彼女の話 その14』
秋宮と春宮はそんなに離れていなかった。
こちらの社殿は秋宮よりも1年早く着工したのだけど
宮大工の意向がふんだんに取り入れられた社殿の作りは
秋宮と変わらず美しく荘厳で
見応えもバツグンだった。
「ここの注連縄も大きくて立派だね~!」
私は感嘆の声をもらした。
「秋宮もそうだけど、春宮も出雲大社の注連縄と
同じ作り方になってるらしいわよ」
さすが、沙織はそういう事情には詳しい。
そして私たちは弊拝殿で手を合わせた。
するとそこに美しい姿の女神さまが現われた。
『よう参られた。
存分に春宮の美しさを楽しんでたもれ』
「八坂刀売神さま。初めまして。
私は沙織と申します。
隣にいるのは友人の琴音と申します。」
私も女神様に深々とお辞儀をした。
『よう頑張りなされましたな。
そなたたちのおかげで
ひとつの無念が取り払われました。
大義であったと聞きましたよ。』
「ありがとうございます。
それもこれも諏訪の大神さまを初めとした
神さま方のお力添えのおかげさまでございます。」
八坂刀売神さまは
対岸の本宮の方を見つめながら
『あの人は、我が君は
子供のような心根のある優しいお方です。
そなたたちの純粋な氣持ちが
我が君の心を動かしたのです。
大きな身体と同じように
大きなお心と器をお持ちのお方なのです。
今回のことも
我がことのように心を痛めていたのでしょう。
この地を統べるものとしての重責もありました。
そして我が君の深い愛に応えてくれたのが
そなたたち二人なのです。
妾からも礼を申します。』
おそれおおくも八坂刀売神さまが頭を垂れた姿をみて
私たちはビックリして慌ててお辞儀をした。
なんて、なんて
深くて穏やかな愛に満ちあふれた方なのだろう。
めっちゃ素敵な女神様だわ。
ふと、視線を感じて私は頭を上げた。
八坂刀売神さまと目があった。
うわ!私を見てる!
ドキドキドキ・・・。
『そなた、琴音と申したな。』
「あ、はい。」
『そなたの剣、いや龍は
とても美しい姿をしておるの』
「ありがとうございます。
朱金(あかがね)といいます。」
すると朱金は私の右腕からするりと出て
本来の龍の姿で女神さまの前に現われた。
『八坂刀売神さま。ごぶさたしております。』
『朱金。よい名前を付けてもらいましたね。』
『ありがとう存じます。』
『これからも、そのものと共に
日本中の龍を目覚めさせる使命
果たしてくださいませね。』
『御意』
えええ?
朱金と八坂刀売神さまって顔見知りだったの?
と聞いてみたかったけど
それを察したのか
『八坂刀売神さまには昔から世話になっておる。
まあ、お前が生れてくるずっと前の話よ。
機会があれば話してやろう』
そうなんだ。
どんな世話になったのか
いつか話をしてくれる時がくればいいな。
『琴音。そなたの龍はとても美しく
そして力強い。だが・・・』
だが・・・?
八坂刀売神さまは
ちょっと考える様子を見せて
私をじっとみている。
な、何を言われるのかな。
ちょっと怖い・・・(汗)
『もう少し、華やかな女性らしさを身につけること。
それが必要に思うのぅ。』
「じょ、女性らしさ。ですか?」
意外な言葉に私は戸惑った。
『なぜ女性が女性としての姿をしておるのか。
もう一度それを考えてみるがよいぞ。』
「女性らしい姿・・・・」
正解を聞くまえに女神さまの視線は
沙織に向いた。
『沙織。』
「はい。」
『そなたも同じじゃ。
これからの旅もきっと一筋縄ではいかないことも
多々、あるであろう。
であっても。女性としての愛の深さ、そして
優しさを決して忘れてはいけませぬ。
男には男としての役目があり
女には女としても役目があるのです。』
「はい・・・。」
『本来なら、そなたたち二人には
これから出雲への旅を進めるのだが・・・・。』
道理としてはそうだろう。
諏訪の大神さま
つまり祭建御名方神(たけみなかたのかみ)さまは
出雲の神。大国主命さまの御子であらせられるからだ。
『その前に、伊勢の猿田彦神社へ参れ。』
「伊勢、ですか?
出雲ではなく?」
『そうじゃ。
もちろん猿田彦神社より先に
天照大神さまにご挨拶をするのを忘れるでないぞ。
そのあとで、猿田彦神社へ参り
そこで佐瑠女神社で天宇受売命(あめのうずめのかみ)に逢うがよい。』
『出雲で出逢うことはそなたたちの使命には必要なこと。
けれど、猿田彦大神に導きの教えを請い
天宇受売命から女性としての役目を請うのじゃ。』
そして女神さまはまた
対岸の本宮に視線をやって
『ほんに、殿方というものは
使命使命と仕事にばかり氣を取られる。
男と女の重要な役割など分かっておらぬのだ。
我が君とて同じこと。』
あら、なにやら諏訪の大神さまに
もの申すことがありそうな?
ため息がもれたような氣がするんだけど。
ああー、なんとなーくわかったような(笑)
「わかりました。
私たちが女としての役目も忘れないように
伊勢に向いたいと思います。
ありがとうございます。」
沙織と私は女神さまに頭を下げてお礼を言った。
『諏訪の地にはまだまだたくさんの見所がある。
この社にしても美しいであろう?
存分にこの地を楽しんで参れよ。』
そういうと女神さまは弊拝殿の奥に消えていった。
「伊勢だって。」
「うん、てっきり出雲へ行けと言われると思ってた。」
それでも私たちはこの休日を目一杯楽しむために
諏訪の地の様々な場所を訪れることにした。
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