壊れた恋人
長らく一緒に暮らしてきた恋人が壊れて動かなくなってしまった。1年ほど前から何となく調子が悪そうだなとは思っていて、病院であちこち診てもらってもいたのだが、最期はあっけないものだった。冷たく横たわった恋人の髪の毛を撫でてさめざめと泣きながら、恋人は何曜日に捨てれば良かったっけと、壁に貼ったゴミの日カレンダーを見た。
私の住んでいる辺りは比較的ゴミの分別がゆるい地域だった。10年ほど前に地域のゴミ処理施設が新しくなり、焼却施設の火力が上がって割と何でも燃やせるようになったせいだと聞いている。とは言え当然ながら恋人は燃えるゴミの日に出せるわけではない。ゴミの日カレンダーの裏側に詳細に書かれてある分別リストを見ると、どうやら恋人は第1第3水曜日の粗大ゴミの日に出すことになっているようだ。って今日じゃねぇか!私は動揺した。
長らく一緒に過ごしてきた恋人である。長らく……具体的には12年になるはずだ。もちろんたくさんの思い出がある。きちんと時間を掛けてお別れをしたい気持ちはある。しかし今日を逃すと次の粗大ゴミの日まで2週間も待たねばならない。それまでずっと恋人を部屋にそのまま置いておくのもそれはそれで忍びなかった。私は迷った。しかしもうすぐゴミ収集車が来る時間だ。私は決断した。私は恋人を抱き上げると、部屋から3分ほど離れた所にあるゴミ捨て場まで持って行って、既に誰かが捨ててあった電子レンジの脇にそっと横たえた。
感傷に浸る暇もなく、ちょうどそこにゴミ収集車がやってきた。車から作業員さんが2人降りて来て、手際よく粗大ゴミを積み込んでゆく。恋人は頭と脚を持たれてヨイショと車に積み上げられた。思わず私はあぁと声をあげる。しかし作業員さんは2人とも旧型のアンドロイドのようで、震える私なんか気にも止めず、そのまま車に乗り込んで走り去ってしまった。私は黙って走り去る車の背中を見守る。恋人とはそれっきりになってしまった。
とぼとぼと部屋に戻った。月並みだが、恋人のいなくなった部屋は妙に広く殺風景に見えた。だからと言ってすぐに次の恋人にと切り替えられるわけでもないが、落ち着いたらまたビックカメラに行って探してみることにしよう。