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嘘と真と

小学校5、6年の時の担任の先生はお喋りが上手くて、授業の隙間や最後に余った5分で色々な面白い話をしてくれたものだ。そんな中で今でも覚えている話がある。

それは先生が以前勤めていたある学校の校長先生の話だった。その校長先生の名前は『サトウ トシオ』……『砂糖と塩』やん!!という、実に短く切れのある面白い話だった。僕も含めてクラスは全員大爆笑、先生も心なしか得意げだった。

30年以上の時を経て思う。あれは本当の話だったのだろうか。当時のクラスメイトたちは皆あの話を、『サトウ トシオ』さんの存在を信じた。確かにサトウもトシオもありふれた名前ではあるが、失礼ながらそんなに都合よく合わさった名前の校長先生が本当にいるだろうか?全部先生の作り話だったのではないか。嘘だったんじゃないか。そう思うのだ。

しかしここでふと気づいた。例えそれが嘘だったとしても、騙された!と不快になる気持ちは微塵もないということに。あるのは感謝だ。面白い嘘で笑わせてくれてありがとう。愉快な授業をありがとう。楽しい思い出をありがとう。嘘だとか真実だとか、そんなことはどうでもいい些細なことなのだ。嘘だったかもしれない。でも嘘だっていい。先生の話を嘘かもしれないと疑ったことをきっかけに、逆に素敵な嘘だってあるんだと嘘を肯定出来た、そんなお話。

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うえぽん
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