邪教のお祓い

今年の正月、私はどうしてもと父母に請われ、久しぶりにあの忌まわしい故郷の村に帰省をした。私の村ではギ=ゾゲバモスという恐ろしい神が信仰されていた。村民たちはギ=ゾゲバモスが定めたとされる厳しい戒律を守って慎ましく暮らしていた。私はそんな村に息苦しさを感じて飛び出したのだ。数年ぶりの帰省。しかしまさかあんな恐ろしい目に遭うだなんてことは、夢にも思っていなかった…。

久しぶりに帰った実家は少しくたびれてはいたが何も変わらず、老いた父母も元気そうだった。東京で激務に追われ疲れ果てていた私は、健康そうに笑う父母が少し羨ましかった。しかし、幸せそうに笑っていても、父も母も恐るべきあのギ=ゾゲバモスを信仰する邪教徒なのだ。顔色が悪い私を心配した父母によって、私は無理矢理ギ=ゾゲバモスの神殿に連れて行かれ、お祓いを受けることになってしまったのである。

ギ=ゾゲバモスの神殿は村の外れにあった。その敷地に建てられた木造の小さな小屋が、お祓いのための施設だった。私はその小さな狭い小屋の入り口で服を脱がされ、奥の小部屋に通された。まずはよく分からない葉っぱで煮出したぬるいお茶を飲むようにと促された。もはや私にそれを拒否することは出来なかった。やがて半裸で腰巻きだけを纏ったギ=ゾゲバモスの神官がやってきた。神官は真っ赤に焼けた石を幾つも乗せたお盆を持っていた。鉄のはさみで1つずつ石を掴むと、中央の台に置いてゆく。そして恭しく礼をすると、エイ!と一声掛けてその石に水をかけた。恐ろしい蒸気が立ち上り、部屋は真っ白に煙った。私は葉っぱを敷いた台の上にうつ伏せに寝かされた。蒸気で息がしづらく、立ち込めた熱気で汗が止まらなかった。神官は恐ろしい口調で何やら呪文を唱えながら、私の背中を葉っぱの付いた枝で何度も打ち据えた。背中がヒリヒリと痛んだが、そんな痛みよりも恐ろしさの方が勝った。しばらく打たれると小部屋から寒い控え室に戻され、またあのよく分からないお茶を飲まされた。それを何度か繰り返される。何度目かのお祓いの後には頭から氷水を浴びせられもした。奴らはこんなことで悪霊が祓えるとでも思っているのだろうか?しかし私は邪神の天罰が恐ろしく、ただなすがままにされるしかなかった。何年も前に村を離れた私にさえ、ギ=ゾゲバモスへの畏怖は染み付いていたのだ…!

いつ果てるともないお祓いはやがて終わり、私はふらふらになりながら家へと帰った。お祓いの儀式のあと少なくとも4時間は家から出てはならないとされ、その間は横になって眠らなければならないと言われていた。私は泥のように眠った。こんなに安らかに眠りについたのはいつぶりだったろうか?しばらくぐっすりと眠って目が醒めた私の身体から、疲れはすっかりなくなっていた。

ギ=ゾゲバモス教のお祓いの儀式は遥か昔に遠い異国から伝えられたものだと言われており、村ではバーニャと呼ばれていた。

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うえぽん
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