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封印されしもの

いずれ魔王の血が覚醒するとか何とか言われて、ここに封印されてからもう5年になる。詳しい場所は言えないが、湾岸エリアのタワマンの8階、2LDKの小綺麗なマンションの一室である。

生活費は全て国が出してくれている。当然マンションの家賃もだ。おそらく税金から賄われているのだろうが、国民はその事実を知っているのだろうか?そんなことが公になったら炎上しそうな案件だが、それでも魔王が復活するよりはマシなのかもしれない。自由に外出する権利がない代わりに生活には不自由させないという交換条件だと考えればまあある程度納得してくれるのではないだろうか。ほぼ誰とも会えない、外にも出られない封印生活。普通の人ならば気が狂いそうなものだが、俺はここでの生活を気に入っている。

朝適当な時間に起きて、丁寧に朝ごはんを作って食べながら、まずは映画を1本観る。あらゆるサブスク配信に加入させてもらって映画は見放題だし、サブスクにない作品も望めばソフトを取り寄せてくれる。昼前に見終わったらトレーニングマシンで軽く汗をかく。リビングルームはトレーニングマシンが揃っていて、さながらトレーニングジムのようになっている。昼はデリバリーを頼むことの方が多い。最近はUberEATSを始めデリバリーが充実してくれてとても有り難い。当然これも値段を気にせず何でも頼むことが出来る。午後はテレビを見るかゲームをするか本を読むかといったところ。ゲームもあらゆるハードを揃えてくれていて、今はテイルズシリーズを1からやり直している所だ。夜ご飯は自炊をすることの方が多い。新鮮な季節の有機野菜が定期的に届くサービスを契約させてもらっていて、本当に何を食べても美味しい。色々と凝った料理を経て、最近はシンプルな蒸し野菜にハマっている。素材そのものの旨みを味わうにはこれが一番なのだ。食事を済ませてゆっくりお風呂に入った後は机に向かって、最近は小説を執筆している。ずっと憧れていた小説家という仕事。この生活を手に入れたおかげで挑戦する時間を確保することが出来た。内容は皮肉にも(?)、勇者が魔王を倒す王道のファンタジー小説。書いてはコツコツとサイトで公開して、アクセス数もそこそこ伸びてきたところだ。

魔王の血が覚醒するだなんて言われて驚いたものだが、おかげでこの生活をさせてもらっていることには感謝をしている。5年前、大学を出て就職したデザイン会社の営業として働き始めて4年目の頃だった。あのままあの会社にいたら俺はきっと壊れていただろう。働くこと、人と関わること、致命的なほどに俺には向いていなかった。こうやって一人で気ままに暮らす生活が何よりも快適だった。俺はここに封印されたことでようやく自分らしさを取り戻すことが出来たのだ。

最近こめかみから小さな角が生えてきたから、俺は本当に魔王の血が覚醒するのだと思う。完全に魔王になったらどうなってしまうのか、どういう処遇になるのか、それはまだ分からない。でもそれはまだもう少し先のことだ。それまでの間、精一杯この封印生活を謳歌させてもらおうと思う。

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