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オン眉毛考

SNSで、「前髪をオン眉毛にしちゃった」という女の子の投稿を見た。綺麗に整えられた前髪は確かに眉毛の稜線に乗っかっている。見事なオン眉毛だった。

前髪というものが失われて久しい。オン眉毛どころではない、far away from眉毛だ。仮に私が「オン眉毛」にしようとしたならば、眉毛の方をお引っ越しする必要がある。眉毛は目を守るためのもの、それは言うなれば城を守る衛兵のような役割だ。だが衛兵も、時には城を捨てて脅威と戦うために攻めに転じる必要もあるのだろう。目の守備を捨て、ハゲという脅威に攻め込まれてズルズルと後退する前髪を守るため、オン眉毛となって前髪の盾となるのかもしれない。眉毛と目の間には広大な平原が広がることとなる。それは関ヶ原か、或いは五丈原か。勝ちの見えぬ戦いの果て、そこはまたぺんぺん草さえ生えぬ焼け野原となるだろう。そうして大地は不毛の地となってゆくのだ。

こうしている間にも、世界では何万、何千万もの前髪が失われている。かつてオン眉毛だったそれは、眉毛という防風林だけ残して過疎化した農村のように、ゆっくりと何も無くなってゆく。「昔はここに村があってねぇ、秋になると田んぼいっぱいに見事な稲が実ったものだよ」在りし日の姿を知る老婆はそう語った。「その村はどうなったのかって?もうすっかり何もない砂漠に成り果ててねぇ。今は奥のキッチンで私のためにお茶をいれてくれているよ」私は妻のために丁寧にほうじ茶を淹れてお盆に乗せた。オンお盆である。

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うえぽん
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