牛乳男の忘却
大好きだった朝ごはんの名前が突然思い出せなくなった。なんだ?どうしてしまったんだ?見た目も、味も、特徴も思い出せるというのに、その名前だけがまるで乱暴に破り捨てられた日記のようにすっぽりと抜け落ちてどうしても思い出せないのだ。
そう、『それ』はとてもカリカリしていて、牛乳をかけたりして食べる甘い食べ物だ。死ぬ前の最後の食べ物が『それ』でも構わないくらいに大好きだった。栄養バランスの五角形がむちゃくちゃデカくて、晩ごはんに出てきたって全然いい。子供の頃は何故かみんな『それ』に憧れていた。お坊さんが修行の時にも食べていると聞いたこともある。パフェのかさ増しに入っていて、ジャンルで言えば中華で、あぁ……!どうしてここまではっきり覚えているのに『それ』の名前だけが浮かんでこないんだ!浮かんでくるのは腕を組んで赤いスカーフを巻いた虎の顔だけ。お前は一体誰なんだ?『それ』は一体何なんだ!
ここで私は思い出した。『それ』の名前ではない。もうひとつ、どうしても名前が思い出せないもののことを思い出してしまったのだ。薄茶色のパリパリの皮で餡子を挟んだ和菓子……あぁ、『あれ』の名前は何だったか。あぁ……!『それ』も『あれ』もどうしても思い出せない!私は「もうええわ」と叫んでこの悪夢のような茶番を終わらせたくなった。
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