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「約束の地」
静かな海。泰然とした空のもと,老媼はじっと遠くを眺めていた。ここは約束の地。生まれ育ち,別れを重ねたこの地で心安らかに生涯を終えることを心待ちにしている。その日が来るまでは,こうして見知った光景を背景に思い出を辿る。
自然の中で寄り添う思い出は,喜びも悲しみも自然のこととして受け入れられる。自然を遠ざけて生きていれば,思い通りにしようと不自然に抗い,もがき苦しむことになる。
満たされないのは,手に入れられていない物がたくさんあるからだと思っていた。けれど,誰もいない,喜びも悲しみもない海と空に気づけたなら。ふと,心が軽くなったのに気づけたなら。
心は,何かで満たす物ではないのかもしれない。旅に出て,気づくことがある。