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書いた順と発表順が違うと見えるもの

純真舞台さんの第1回本公演「BLACK/WHITE〜live together in perfect harmony〜」が終わったようだ。僕にしては、かなり長いタイトルである。現場ではいろんなことが起きて、キャストが変わったり、台詞が変更になったりしたが、どうやら幕を下ろすことができたみたいで、こちらも安堵している。

Xへのお客様の感想の書き込みは、前半の平日は少なめで、ちょっと気をもんだが、土日はかなりのお客様が、熱い感想をポストしていたので、何とか作品が届いたのかなと、こちらも胸をなで下ろしている。


純真舞台さんの演劇公演に脚本を書き下ろすのは2本目になる。昨年12月に、こちらもかなりの好評だった「シン・赤ずきん〜童話は童話〜」を書き下ろし、間に朗読公演用の脚本を挟んで、長いものとしては2本目だ。

実は、この2本、書いた順番は逆である。後から上演された「BLACK/WHITE…」は、今から3年半位前に、ある団体さんがパンデミックの最中に上演しようとしていて、案の定流れてしまった公演のための脚本だった。しかし、もっと戻れば、この作品の母体は、とある戯曲賞に応募するために書いた脚本のシノプシス(粗筋)からスタートしている。この戯曲賞の第1次選考は、脚本そのものではなく、脚本のシノプシスを送り、それが通れば、実際の脚本で審査される、というシステムだった。残念ながら、1次審査で落ちてしまったので、この時は脚本は書いていない。後でよく読んでみると、矛盾だらけの粗筋で、成る程、これだったら落ちるよな、と思ったのを覚えている。この戯曲賞の作品の条件の1つに「出演者が、全員若い女性」というものがあり、だから「BLACK/WHITE…」の登場人物は、男性が1人という、非常に偏った男女比になっている。


僕は常日頃、作品を書きためておくような人間ではない。何となくの構成や、何となくやってみたい題材は頭の中にあっても、それを実際に形にするのは、脚本のオファーがあった時である。だから、発表順と執筆順が逆になることは殆どない。今回、たまたまそうなったのだが、それが可能だったのは、先行して書かれた「BLACK/WHITE…」の中に、今上演しても古びていない、むしろ「今」を映し出すような要素が複数入っていたからである。

「分断」や「戦争」の問題は、ずっとこの世界を覆い続けている。「パンデミック」に関しては、記憶もだいぶ薄れてきてしまっているので、こちらはかなり抑えめに変更した。そういった微調整を行えば、4、5年前にシノプシスが作られた作品でも、今の時代を映し出すものとして上演することができる。「分断」や「戦争」がある種の普遍性を獲得している世界は決して望ましいものではないが、結果として時代にフィットしたものになった。

昨年の「シン・赤ずきん」も「戦争」が出てくる。こちらは明らかに、その当時リアルタイムで行われていた(今もまだ収まってはいないが)ウクライナ戦争やガザ地区でのイスラエルの攻撃といったものの影響だ。それを明らかに意識して、劇中に取り入れている。言ってみれば、「シン・赤ずきん」から「BLACK/WHITE…」は、具体から抽象の流れであった。勿論、偶然の産物であり、意図したものではない。


いずれにせよ、書いた順とは逆に発表するのも、面白いものだと思った。前に書いたものが、今書いているものより古びているとか、自分の考えに合わなくなったとか、世の中の流れにそぐわなくなったとか、そういうことは必ずしもない。温故知新というと大袈裟すぎるが、ずっと前に書いたものが、今を予言していることもある。そういう作品を、これからも書いていきたいものだ。

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