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【詩】風景1(花巻行のワンマン列車)午睡の川辺から

盛岡駅発 花巻駅行きのワンマン列車に乗っていた
冬の平日の昼下がり 二両編成の車内はのんびりとしていた

列車が走り出した
プシュっと缶を開ける音が聞こえた
音の出所を見ると 一人の老婆が折っていた膝を伸ばして立ち上がるところだった
その手には一本の缶ビール どうやら一度床に固定して缶の蓋を開けたようだった

老婆は立ったままビールを飲みつつ車窓の風景を眺めている
家並み 畑 工場 山々
過ぎ去っていく風景を眺める老婆の横顔はなんとも楽しげで 上機嫌にビールを口元に運んでいる

私は酒場が苦手だ
酒もあんまり飲めない
でも あのおばあさんのような飲み方はいいな と思った

酒はひとりで飲むもの
流れていく車窓をつまみに呑むなんて粋じゃないか
そんな心の声が聞こえてくるようだった

ちょうど列車が石材店の前を通り抜けた
倉庫に小坊主さんの絵が描かれていた
いいよ いいよ
と目尻を下げてスマイルしている

幸せの形は人それぞれ

ぽかぽか 窓からは陽光が差し込み
ゆらゆら 進みゆく電車に揺られるうち
ふわふわ 午睡の川辺をたゆたっていた

(2024.12.2月 花巻駅行きのワンマン列車に揺られながら)

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