フリー顔(フィクション)
「ねえ、なにこれ?」
スマホを見せながら、娘は涙目になっている。
誕生日プレゼントに買ってあげたものだ。
そこには大量の、娘が写った写真があった。
「娘の写真は、ネットにあげた?」
「あげてないわ。」
「じゃあ、なんでこんなにあるのー?」
「わからない。」
「それに、なんか変なポーズばっかり。知らない服や、高そうなバッグ持ってる。」
「SNSのアイコンにも使われているなあ。」
「ちょっと、ホームページに問い合わせてみない?」
「どうだった?」
「それが、フリー素材として使っていただけだっていってるんだ。」
「じゃあ、誰かが作った画像なのかな?」
「ひたすら、元を追いかけて行ったら、行き着くかもしれない。」
「ようこそ。こちらへ。」
「あなたの会社は、フリー素材となる画像を作っているんですよね。」
「そうです。私たちは、様々な画像を自動生成できます。」
「どんな画像を作れるんですか。」
「風景、動物、家具、そして最も得意なのは人物です。」
「顔は、どのように作ってるんですか?」
「既存のパーツを組み合わせることが多いです。しかし、最近は十分にデータが集まったので、オリジナルの顔パーツが作れます。」
「シミュレーションするんですか?」
「はい。人間の顔を学習させることで、存在しないパーツを作って、既存のパーツに組み合わせた存在しない人の顔も作れるのです。」
「存在している人の顔を作ってしまうこともあるのでは?」
「それはあり得ません。作成と同時に、ネット上にある顔データと比較し、検証を行っているからです。同じ顔なら、削除されます。」
「なるほど。」
相槌をうっておいた。
「どうゆうことなのー?」
娘が飛び出してきた。
すると、案内人の目が丸くなった。
「この顔を知ってるんですね。」
「・・・。少々お待ちください。」
「おお。ついに来ましたか。」
「あなたは?」
「画像生成プログラムを作った者です。」
「何も言わなくても、分かっていそうですね。」
「はい。私はこの技術を使うときに、プログラムが、まだ生まれていない人物の顔を生成してしまうリスクを想定していました。
多くの方は赤ちゃんの段階で、写真をネットにアップします。ですから、常にアップされた写真を監視し、成長後にどのような顔になるかまで計算することで、重複を見つけて削除していました。
しかし、今回は例外のケースだったわけです。ご迷惑をおかけしました。」
「ねえ、写真消してよ!」
「わかりました。すぐに処置しますから、こちらへ。」
「どうするんですか?」
「見ていてください。」
画面には、娘の顔が載ったファッション通販サイトが表示されている。
開発者が操作をした。
すると、別の女性の顔になった。
「代わりの顔に変えましたよ。」
「わー。すごーい!」
「これは?」
「簡単なことです。顔写真には、元になった顔ごとにコードがつけられています。それを指定して、新しく生成した顔に付け替えたのです。」
「なるほど。。」
「にいさん、頭いいねえー。」
「ふふ。」
「他の画像生成サービスでは、全ての画像を管理できていないと思います。そして、私たちのプログラムも完全ではありません。よかったら、ご意見等をお伝えください。」
不思議な現象は、思ったよりも早く、終わったのだった。
後日。
会社を早めに出て、幼稚園へ向かった。
もう、1ヶ月たったから、慣れてきただろう。
着くと、娘が待っていた。
「あっ、パパー。ねえ、面白い人を見つけたよー。」
「そんなに、面白いかなー?」
「うんうん。パパ、見たことあるでしょー。」
そこには、
代わりの顔が居た。
(終)
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