AIはヒトに夢を見せるか(フィクション)

祖父から、久しぶりに家に来ないかと誘われた。以前はよく遊びに行っていたが、学校が忙しくてなかなか行けなかった。

「やあ。そろそろ死にそうかなと思ってね。」
「じいちゃんらしくないなあ。」
「いやいや。死ぬのが楽しみなんだよ。」
「なんでさ?」
「人間の認知から外れられるんじゃないかと思ってね。」
「どうゆうこと?」

祖父は、人工知能の研究をしていたらしい。だが、突然やめてしまった。しばらくは、新聞を読んでニュースをまとめたり、人工知能技術の解説記事を書いて過ごしていたという。研究仲間からは評判がよく、購読料で海外旅行も、らくらくだったらしい。

「私たちが見ている風景は、目を通して知覚した光を見ている。それを含めた五感を用いてヒトは世界を認識しているわけだ。
私は、考えた。五感を通じずに世界を認識したい。そして、人間だけではわからない自然法則を知りたいと思ったんだ。
だが、うまくいかないことに気づいた。だから、やめたんだ。」
「・・・・・・。よくわからない。」

「私たち人間は、科学を発展させてきた。物質についても研究を重ねて、機械を作ってきた。結果、宇宙から深海まで認知範囲を広げた。しかし、それによって認知能力が上がったわけではない。」
「ん?どんな違いがあるの?」
「例えば、鉄をヒトは使う。酸化鉄を還元させる。ドロドロの状態のままで型に流し込む。変形させる。これらは、全てヒトの認識できる範囲で起きていることだ。だが、もしヒトの認知できない鉄の状態があったとしたら。その状態で生み出された機械を通して見ると、別の世界が見えるとしたら。」
「同じ認知能力で、視野だけを広げてきたってこと?」
「そうそう。そんなことをやっていると、『人間原理』なんていう考えが生まれてしまう。結局は、宇宙のうちで、人間が観測できる部分だけを観測しているだけだ。」

「うーん。やっぱり、わからなくなった。じゃあ、どうやったら人間が認知できないことがあるかを、知ることができるの?考えてはみたんでしょ。じいちゃんのことだからさ。」
「生きている間に観測するとしたら、難しいことをやらないといけない。」

はあとため息をついた。

「ひとつは、ヒトが観測機できない機器を使うことだ。」
「なにそれ?意味ないじゃん。」
「いやある。ヒトが観測できないということは、ヒトが認識できないものを観測しているということだ。その観測結果をAIに解析させて、法則性を見つけてもらう。」
「AIの翻訳で初めて認知できるようにするってこと?」
「そうだ。」
「不可能そうだなあ。[ヒトが認識できない]って、暗闇で目に見えないも含むよね。認識できないことを確認しなきゃいけないでしょ。それって可能なのかなあ。」
「それは、後に任せる。」
ごほごほ。

祖父が呼吸を落ち着かせるのを待った。

「ふたつ目は、今の観測機器で、ひたすらに観測できない部分を集めて解析させることだ。」
「これも定義付けが必要そう。」
「もちろんだ。他の動物が見ている視覚の中で、人間が認識できない部分が特に重要になるだろう。」

「そういえば重要なことを忘れている気がする。」
「何かな。」
「これからAIの解析力進歩で、ヒトが認識できる範囲は爆発的に増えそう。だから、ヒトが認識できるように変換できない領域を気づくことがむずかしくなる。」
「そうだ。だから今やらなきゃいけないんだ。」

「じいちゃんは、何かしていたの?」
「計画を練っていたんだ。その開始が今日だよ。」
「今日って?」
「つまり、自分が死ぬ日さ。」
「死んでどうするの?」
「ヒトに認知できないものを見る。そして、ヒトに伝える。」
「どうやるの?」
「秘密だ。邪魔されたくない。」
「でも、自分も手伝いたい。」
「既に、計画に組み込んでる。待ちなさい。」

祖父は目を閉じた。

「そろそろだ。帰りなさい。早く。最後は1人がいい。」

自分は、逃げ出した。

それから、1年経つが返事はない。
死んだかもわからない。
私はその理由を知っている。
いや、自分は嘘をついている。
自分は分かっている。

(終)

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