中二病はやめられない
残業なんかするもんか。17時30分。時間ぴったりに退勤だ。
オフィスからエレベーターを降りて、外へ出ると結構な雨である。
「フッ……。」
不敵な笑みを浮かべながら僕は空を見上げ、心の中でつぶやいた。
「しっかり今日の朝、お天気チェックはしているのだよ……お前の動きはすでに見切った!」
そう、僕は空に向かって中二病的なセリフをドヤ顔で発する完全なるイタい奴と化していた。
一度アホになったらもう誰も止められない。いや、そもそも誰も見ていない。
厳選に厳選を重ねて選んだお天気アプリが僕のスマホには搭載されている。そのアプリの名はamehare。コイツの今日の予報は——曇りのち雨——さすがだぜ、amehare。
amehareは2017年にグッドデザイン賞を受賞している。見た目がオシャレなのだ。それに加えて使い勝手も精度もいい。「iphoneにamehareを搭載してるオレどうよ?」とひとり雨空に向かってドヤりながらAirPodsを耳に装着する。空に対してさえ上から目線だ。もう怖いものなど何もない。
加速する痛々しいナルシズムはフリーザ最終形態並みに進化していた。もはや僕は宇宙の帝王気分である。
そうして僕はカバンから颯爽と伝家の宝刀、折り畳み傘を……アレ?
折り畳み……ない!なんでないんだ?あ。もしかして休日用のバッグに入れたまんまか......。
ようやく僕は我に返り始めた。
そして自分の間抜けさを呪った。
あまりに雨が降っていたので、途中で傘を買いにコンビニに寄った。レジに並ぶときの「ここでお待ちください」という足あとマークの近くに傘は置いてあった。
傘は二種類ある。普通サイズと、70センチというデカいヤツ。だが値札がついていない。周りを見てもどこにも値段が見あたらない。コンビニの傘は高いはずだ。買おうか買うまいか、もし買うとすれば普通のにするか大サイズにするか、僕は迷った。
しかしとにかく僕は帰りたくて仕方がなかった。明日も大雨だというし、デカいの一本買ってしまおうか、ビニール傘だけど......。
70㎝と書かれた大きめの傘を抜きとった。そしてその先っぽを天井へ向けて傘を眺め、最後の審判にのぞもうとしたまさにその時、すかさずレジのお姉さんが天使の笑みで、
「お待ちのお客様こちらどうぞ!」
タイミング良すぎないか?
だがここまできたらもう後には引けない。お姉さんも気を利かせてレジ開けてくれたし。僕はレジに傘を差しだした。
「こちら、710円になります。」
ビニール傘710円って……高すぎだろ!足あとマーク近くに置いていたのは巧妙なトラップだったか?僕の目に映るお姉さんの微笑みは、みるみる悪魔の薄ら笑いへと変貌していった。
コンビニを出てデカい傘を広げる。
降りしきる雨のなか僕は唇をかみしめながら帰り道を歩いて行った。こんなんだったら、タクシーに乗ってしまえば良かったか......。
いや、後悔なんかするもんか。
オレの動きを見切っていたな。さすがだぜ、店員さん!認めてやるよ。オレの完敗だ。
僕は心の中で親指を立てた。
そして雨空を見上げながら苦笑を浮かべてつぶやいた。
「フッ......まるでオレの心模様だな。だが雨はいずれ上がるのさ。」
最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました!