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製造業の事業承継の事例(パート③)

こんにちは!中小製造業応援団のたつみです。

私が取締役をしていた辰巳工業の事業承継の体験をまとめた3回連載の最終回です。1,2回目はこちらをご覧ください。

1回目では父から母へのバトンタッチ、2回目では母から妹の旦那への小計を書きました。今回は、今までと少し観点は違いますが辰巳工業が事業承継と関連して他の会社を買収したので、その内容をお伝えし、最後にまとめを書きます。

事業承継③:ダイキャスト金型会社の買収

もう私が取締役を離れてからの出来事なので、さほど詳しく書けません。しかしこの買収が中小製造業の生きる道の一つと思い、少しだけ書きます。

昨年(2019年)に、私は職業人生の転機があり、妹に連絡しました。妹は辰巳工業の取締役になり、間接業務(経理、人事、ITなど)全般を担当しています。「赤田さん(買収した会社。赤田金型製作所)って覚えてる?急遽買収するような話になって最後の詰めをしているところなんよ。」と聞き、「えっ!」と一瞬固まりました。

道路向かいの会社で、私は赤田さんの方とは面識はありませんでした。しかし70年前からある会社で、辰巳工業とずっとご近所で商売されていた会社なので知ってはいました。

以前から私は「絶対お客さんが手放したくない鋳物屋になるために、技術の追求と規模のある程度の拡大は必要」言い続けてきました。しかし、同じ金属業界とはいえ少し異なる事業をしている会社を買うとは思いませんでした。辰巳工業はステンレス特殊鋼の砂型鋳造の会社です。赤田さんはダイキャスト鋳造の金型を作っている会社です。鋳造物を作る側と、作るための金型側、砂型とダイキャスト、と少し違うんですよね。設備も似たものはありません。

赤田さんは10名ほどの会社で、後継者がいなくて、これからどうするか考えておられました。金融機関含めて何人かの人たちに相談されてたようです。それをたまたま聞いたのがきっかけです。

たっくん(辰巳工業社長)と話したところ、「色々悩んだけど事業は拡大しないこの規模じゃ厳しい。金属加工技術を磨きたい。また、目の前の会社がとりあえず当面は仕事もあるし大きな赤字とかならないレベルで買えるのはチャンスと思った」と結構すぐ決めたようです。他にも色々書けない話もありましたが、考えていたのはよくわかりました。

2019年11月に買収したところなので、善し悪しを判断できるほど経っていません。今まであまり考えていなかった視点(PMI:吸収合併後の統合)からの制度設計などもまだまだなんです。新型コロナウィルスの影響前ですが、買収前後でダイキャスト鋳造金型事業の売上は伸びましたので、今のところは順調です。

このときの状況を整理します。

①辰巳工業の経営は上向きで、どう事業拡大するかが課題だった
②主要メンバーはみんなものすごく忙しくしていたが、前向きに仕事に取り組んでいた
③赤田さんは道路向かいと徒歩1分以内
④赤田さんはご高齢で後継者がいなく、今後のことを悩んでいた
⑤辰巳工業と赤田さんは、近い業界だが事業は異なっていた

よく決断したな、と尊敬します。元々たっくんは真面目で慎重なタイプだと思います。しかし「今の時代、70年続いている金属業界の会社に技術がないはずない。金属の辰巳に近づける」と言った言葉が印象に残っています。

事業承継③:まとめ

前回までと同様にポイントをまとめてみます。

①事業承継の手段として買収は大いにアリ
②距離が近くて似た業種であれば、合併の選択肢に入れていいのでは
③買収する側、される側の社長がじっくり話すことが重要

①事業承継の手段として買収は大いにアリ

私は中小製造業は特に、自分たちをベンチャーと考えて成長をもっと目指すべきだと考えています。もちろんそれを望んでおらず、こだわりの技術で自分のできる範囲のことを楽しくやりたい人もいると思います。しかし、変化のスピードが速く、少子高齢化社会で勝ち残り続けるには、買収は重要な選択肢と思っています。

買ってもらう事業承継側も社員や技術を残すことを考えると、社内のリソースに限定しなくてもいいと考えます。無理矢理社内から後継者を作り出そうとするとムリが出てきます。昔「辰巳工業」の名前を残そうと必死になっていた両親を見ているので、買収されるのがイヤな社長の気持ちもわかりますし、私は永続的に続く組織づくりを支援するコンサルティングをしていました。それでもちゃんと受け入れてくれところと合併するのも、社員と技術を考えると良い手段だと思いますし、ハッキリ言って潰すよりよっぽどいいです。

②距離が近くて似た業種であれば、合併の選択肢に入れていいのでは

企業との出会いは結婚のように縁があります。全くの同業他社を事業承継で合併するチャンスはそうあるものではありません。近しい技術を掛け合わせて新たな製品サービスを生み出す、大切な技術を磨く、といった目的があれば全くの同業他社でなくてもいいと思います。ニッチすぎる分野の一つの事業の一本足打法より、複数事業にすることでリスク分散することも可能です。

③買収する側、される側の社長がじっくり話すことが重要

大きな会社の事業買収とは異なり、体力のない中小製造業が合併するときは、技術や製品だけでなく組織としての相性が重要になってきます。私たちは近所だったので、何となくお互いのことはわかっていました。70年もお隣さんなので。その上でガッツリ経営者同士で話をし、技術的にも組織的にも合うと思えたから一緒になれました。PMI(吸収合併後の統合)でバタバタしている余裕なんてないですし、失敗も許されないです。文化が統合できないと職人さんが辞めてしまいます。条件以上に文化の対話が重要と考えます。

事業承継を考えている方々へ

3つの事業承継の例をご紹介してきました。それぞれまとめも書きましたが、最後に今後事業承継を考えている方への参考になりそうなことを書きます。

①知的資産経営報告書を徹底的にこだわって作って見る

要は、自社の強みを明らかにして主要メンバーで共有することが事業承継の第一歩と思います。社長の強みも引っぺがして、何が強くてどうすればいいか、今後の経営を担うメンバーで考えること、想いを共有すること、ちゃんと資料に残すことは、非常に有効です。さらにその取り組みの中で自社の市場価値を調べましょう。

②ナンバー2や若手を育てる

後継者で悩んでいるのに、と言われるのは承知で書いています。一人に全てを背負わせるのではなく、2人やチームで経営できる状況を作れば後継者も逆に見つけられるのではないでしょうか。引退間近の職人ばかりの現場を率いることは難しいです。がんばって若い人を見つけて育てることをやらないとダメではないでしょうか。息子がいなくて後継者に困っている方は、業績と合わせて後継者の右腕を発掘して育てたり、若い人をがんばって採用して育てたりすることが事業承継に繋がると考えます。

またいつかこの育成や採用についても書きたいと思います。やればできます。


新型コロナウィルスの影響で、上向きの業界と下向きの業界がハッキリしてきます。事業承継を諦めて閉める話も聞くようになりました。

今までとは違う産業向けの製造をする会社もたくさん出てくると思います。中小製造業ではIT化と人によって変化への対応力が変わります。大変な状況だとは思いますが、すぐできる強みの明確化やIT化を進め、勝ち残りの道を探し続けていただきたいと第三者で無責任ながらも願っています。

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