新井章太 コラム ~保証がないこの世界で確実にチャンスをものにする男~

今まで書いてきたコラムのなかでも一番文字数の多い約1900文字となっています。

ではどうぞ!

新井章太。数年前までは彼の名前を知っていた人はあまりいないだろう。だが、昨年5月6日ファーストステージ第10節ホーム広島戦で出番が回ってきた。なんとスターティングメンバーに名を連ねたのだ。2013年にトライアウトという形で東京ヴェルディー1969から完全移籍で加入したが2014年も含め2年間まったく出場機会に恵まれなかった。その中での出番でありプロ初出場の試合でもあった。

しかしサッカーというスポーツはそう甘くはない。開始早々にドウグラス(現アル・アイン)にネットを揺らされてしまい、その後もJ屈指の攻撃陣は反撃できずに終わり結果0ー1とほろ苦いデビュー戦となった。そしてデビュー戦の4日後であるファーストステージ第11節アウェイ名古屋戦で見事プロ入り初のクリーンシートを達成した。しかも“アウェイで”である。新井にとってとても大きな経験になったに違いない。

 2015年10月17日セカンドステージ第14節アウェイ広島戦。奇しくも新井はデビュー戦と同じ相手との試合でスターティングメンバーから外れることになる。2015シーズンのファーストキーパーであった西部洋平(現清水エスパルス)が戦列に復帰したのが理由である。チームはタイトルを獲るためにも絶対に勝たなければいけない試合であったが、かつて川崎に在籍していた山岸智(現大分トリニータ)がロスタイムに劇的決勝弾を突き刺し1ー2と敗北を喫した。

その後、同ステージ第16節からスタメンの座を奪い返すことができた。だが、チームは年間6位とCS(チャンピオンシップ)やACL出場権獲得といった“ノルマ”を達成することはできなかった。そんな中、新井個人としては満足とまでは言い難いが例年と比較したら十分結果を出せたのではないだろうか。それまで1回も公式戦に出ていなかった男が1年を通しリーグ戦で23試合出場した。“成長”をよく感じられたシーズンとなった。

 2015年も終わりに近づいている頃、川崎フロンターレのクラブオフィシャルサイトにビックニュースが掲載された。それは韓国代表ゴールキーパーであるチョン・ソンリョンの加入を知らせるものであった。西部が退団して新井が正ゴールキーパーになると予想されていたさなかであった。結果的に2016年シーズンはチョン・ソンリョンがゴールを守ることになった。

正直移籍してきたばかりの外国人選手はたとえ経験があったとしても“未知”な部分が多い。だが、そんな不安をソンリョンは良い意味で裏切ってくれた。開幕戦では前年度王者の広島を相手にビックセーブを連発し、見事1ー0とクリーンシートを達成し自身の日本デビューに花を添えた。

そんな状況でも新井は決して諦めていなかった。4月29日。鬼門とされていた万博記念競技場ではなくG大阪が今シーズンより使用している吹田スタジアムで迎えた一戦。チョン・ソンリョンが相手FWのパトリックとの接触で脳震盪になってしまったため前半32分での途中交代を強いられてしまう。途中交代で入った新井は今季リーグ戦初出場だったが、昨年に引き続き安定したパフォーマンスであった。だが、その後のリーグ戦ではベンチを温める時間が続いた。

 そんな時チョン・ソンリョンが膝を痛めてしまい新井に出番が回ってきた。しかもその試合は神奈川ダービーである。新井はおそらく“やってやる”そのような気持ちで試合に臨んだだろう。

しかし運命のイタズラというものはとても残酷な物であった。69分、味方選手との接触により今度は新井が脳震盪の疑いで交代を強いられてしまった。新井の治療などの影響もあり、この試合の後半のアディショナルタイムは9分もあった。後日新井は精密検査を行った結果、脳震盪及び左頬骨骨折と診断され神戸戦を欠場することになった。

 およそ3週間の中断期間を挟みJリーグは再開された。新井はスタメンで戻ってきた。しかもその相手は広島だった。新井が何かしらの局面を迎えるとき相手は必ず広島である。

結果は2ー0と負傷交代した横浜Fマリノス戦から約1ケ月振りのリベンジを果たした。ただ、新井はこれだけでは終わらない。続く鹿島アントラーズ戦も好セーブを連発し、大事な1点を守り抜きCS前哨戦といわれたこの試合でも圧巻のパフォーマンスだった。

 チョン・ソンリョンが負傷し一時はチームに暗雲が立ち込めたが新井は太陽となり暗雲を一気に取っ払った。いつチョン・ソンリョンが戻ってくるかは不透明だが今の新井は一戦、一戦目の前の敵を倒すことだけを考えている。

いつも最後にチームを救う救世主は新井章太。彼なのかもしれない。

(I.RYUJI)


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