0円不動産時代へ(下) ー 下落する地価/まちづくりに何ができるか
(※前稿はこちらから)
再開発されないまち/下落し続ける地価
「地価」は経済活動のパロメータである。また、固定資産税は地方税の重要な位置を占めているため地方自治体の運営にも直結する。地価が上昇傾向にある場合は、新しい不動産投機も誘発され、固定資産税も増加し、官民共に健全な経済発展が期待される。しかし、地方都市では依然として下落傾向が顕著である。我が街もここ20年ほど上昇に転じたことはない。
では、どうすれば地価の上昇を喚起できるのだろうか。端的には、まちなかの再開発が該当するだろう。たとえば富山市はコンパクトシティ政策は成功例としてよくメディアでも取り上げられている。
同じようなことが、小規模自治体で可能かといえば、それもまた難しい。現にまちなかエリアの都市計画道路はほとんどフリーズ状態で事業化されていない。幹線道路には歩道もなく、児童・学生の通学には支障がある。そのため、安全面を考慮して、車すら通ることができない小路が通学路に指定されている。苦肉の策ではあるが、愛らしい通学光景を見ることができる。
「地価」は高くあるべきか
これまでの話をまとめると、まちなかエリアは市場からも行政からも見放されている。結果として、「0円不動産」の時代に足を踏み入れつつある。どうやったら「地価が上がるのか」と苦心する声も地元では聞こえてくる。しかし、マッシブな方向転換が行われない限りは現状を克服するのは難しい。
ref.滑川市空き家バンクの物件情報。二足三文の価格で売買されている中古物件が目立つ。
私の考えとしては、無理な地価上昇を画策するよりも、この状況をポジティブに捉え直し、新しい方法を企図する方が建設的であると思う。言い方を変えるならば、その「安さ」を最大限のメリットとして捉え直し、新しい人材・ビジネスが「介入」することができる場所として再設定することである。「安い」ということは、事業者にとっては経営コストを、居住者にとっては生活コストを抑制することに直結し、その分、資本を創造的・生産的な部分に集中投入することができる。現実に、街の一部では、新規開店・創業が喚起されているエリアが存在し、「ちいさな賑わい」が生み出されている。
「地価を上昇させよう」とすると課題は多い。一方で「安さ」をウリにすると様々な可能性が浮かび上がってくる。強いては無理な勝負を避け、「開き直りの戦略」を画策する方が得策ではないだろうか。
「まちづくり」に何ができるか
ここ滑川では、まちなかに対する都市計画はほとんどストップしている。そして、行政や議会の動きをみていても、ここ数年来に何か新しい事業が推進されるとは考えにくい。関心はハード整備からソフト整備にシフトしつつあり、膨大な予算と時間を必要とする「都市計画」は、未完のまま完成を迎えようとしている。
私は「建築家」の立場ではあるが、この「ソフト重視」の傾向は(自らの職務とは背反するがしてはいるが)、どちらかと言えば歓迎している。建物や都市といった物体は、その中にある人々の生活や活動が充実していてこそ、価値あるものとなる。
とはいえ、ハード整備にたいする「無策状態」がこのまま継続されるようであるならば、「0円不動産」「虫食い」が進む地方小都市のまちなかの衰退はより深刻なものなるだろう。今後、必要とされるのは、持続可能なまちづくりを行うための小規模で機転の効いたハード整備ではなかろうか。たとえば、「ちいさなまちづくりのアイディア」として、次のようなものが思いつく。
ミニ区画整理
柔軟に運用できる「まちなか駐車場」の整備
都市空間確保のための「2戸1」の推進
ソフト支援(1):創業支援
ソフト支援(2):居住支援
まとめ
まちなかへの移住をとおして、スポンジ化問題は予想以上に深刻であると実感した。その中でソフト面への支援に重点を置く自治体の施作には親近感を覚えるが、一方でハード支援を諦めてしまっている状況も否めない。ハードとソフトは表裏一体の関係であり、どちらか一方の整備では片手落ちになってしまう。今、求められているのは、より小さなレベルでの取り組みであり、課題や状況に応じて柔軟に対応できる整備手法であると考えている。
今回は時間の都合から、そして私の力量不足から、上記の「ちいさなまちづくりのアイディア」の詳細を紹介するには至らず、申し訳なく思っている。今後、改めてまとめ直したい。また以下に今回のテーマに関連する記事のリンクを紹介するので、ご笑覧いただけたら幸いである。
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