弁護士が気づけばEnterprise SaaSを創業していた話
私が弁護士バッジを初めて着けたとき、まさかテクノロジー企業を経営することになるとは夢にも思っていませんでした。
実は、「法務」というフィールドは、日本でまだ成功事例が少ないEnterprise SaaSの最高の舞台になっています。ですので、私が弁護士として実現したかった世界観を実現するためのベストなアプローチとして、NLP SaaSに行きついたのだと思っています。
今日は、大企業向けのリーガルテック企業MNTSQの代表である板谷から、法務のEnterprise SaaSの最前線をお伝えできればと思います。
「法務」ってそんなに熱い領域なの?
SaaSが注目されて久しいですが、日本では特に大企業向けの成功事例が多いとはいえないと思います。その理由の一つとして、大企業ごとに個別開発された基幹システムがしっかりと根を張っていることが多いことが挙げられます。
しかし、法務領域のEnterprise SaaSを提供しているMNTSQでは、ありがたいことにトヨタさま、三菱商事さまなどに続き、直近では三井住友銀行さまでの導入がリリースされ、またそれに比肩する大企業さんへのプロダクト導入が次々と続いています。
どの企業も、個別開発の要素はかなり小さく、基本的にはMNTSQの提供する標準的なSaaSをご導入いただいています。また、「法務部の便利ツール」としてではなく、いわゆる「基幹システム」として全社的なご検討をいただく案件が増えてきました。
今日で設立3周年のベンチャー企業であるMNTSQが、なぜ大企業に迎え入れられているのか。そこには、法務という領域の「今しかない」特殊性があります。
理由① - 法務は基幹システムの空隙である
日本の大企業がSaaSを取り入れられない理由の一つは、既にガチガチに個別開発した自社システムが存在し、そのリプレースがあまりに難しいためです(「2025年の壁」など有名な話ですよね)。
しかし、生産・物流・販売・会計・人事などの領域と異なり、実は、法務は基幹システムでカバーされていない「最後の空隙」になっています。それは、契約データというものを効率よく扱うテクノロジーが存在せず、法務リスクをマネジメントする術がなかったためです。
そのため、法務において使われているベストツールは、今でもメール/Word/Excelです(法務部さんとメールでwordファイルを何往復もしたご経験がありませんか?)。
ここには、法務領域のベストプラクティスを結晶化させたSaaSプロダクトで、業務の刷新を実現するための広大なブルーオーシャンがあります。
理由② - 法務は機械学習と最高のフィットがある
法務はメソポタミア文明からずーっと続いている領域ですが、実は、最先端のテクノロジー(機械学習/自然言語処理技術)と破壊的に相性がよく、今こそ変革することができる領域です。
MNTSQではPKSHA Technologyとも提携して機械学習を本格的に活用していますが、実際に地に足のついた価値を出すことができています。その理由は以下のとおりです。
法務(例えば契約書をイメージしてください)では、その性質上、すべての条件を「言語」として表現しきることが本質的に必要であること
また、その表現方法も、「条」単位に内容が分割され、それぞれの条も「甲は乙に対して〇〇する。ただし、〇〇の場合にはこの限りではない」などというように、パターン化が進んでいること
契約の過去データは膨大な分量が存在すること
最先端のテクノロジーを活用すれば、無色透明なシステムではなく、法務的な「知性」をふんだんに取り込んだプロダクトを開発できること。これが法務でさらにSaaSの活用が進んでいる理由です。
理由③ - コロナ禍でデジタル化が最も加速した領域である
コロナ禍で最も活用が進んだプロダクトの一つは、おそらく電子契約でしょう。「ハンコのための出社」などはテレワークを阻んだものの象徴として多くのメディアに取り上げられました。
「電子契約の導入」という今ほとんどの大企業が必ず検討している課題は、それがそのまま「契約業務プロセス全体の見直し」に直結しています(過去記事)。
すなわち、法務はここにきてDXの流れを正面から受け止める領域になっており、それゆえに各社とも予算とコストをかけて検討を進めています。担当者も「いま変わらなければ、10年は変わらないかもしれない」という思いでプロジェクトを進めており、その意味でも非常に熱いドメインになっています。
気づけばEnterprise SaaS を経営していて思うこと
私が弁護士として働くなかで感じた問題意識は、世の中にある契約のほとんどは「フェア」ではないということです。しかも、契約というフォーマットは(取引のために必須でありながら)難解すぎ、コストがかかりすぎだと思っています(こちらで深掘りしています)。
「契約(合意)がフェアである社会は、いい社会である」と私は思っています。それは、企業間取引だけではなく、to Cであっても、公共領域であっても、なんなら国際関係においてもです。
私は一弁護士としてこの課題を解決していきたいと考えていましたが、実は、SaaSというスケールする形式でこの問題を解決できれば、社会のためにより有益なのではないかとも考えています。
MNTSQは、国内トップローファームと提携して法務ノウハウを承継しつつ、最先端のテクノロジーを結集したSaaSというスケーラブルな器で提供することで、社会の契約をすべてフェアにしていくことをミッションとしています。新しい法務の世界への扉をMNTSQは開きつつあり、そして一緒にこじ開けてくれる仲間を募集しています。