ジェンダー平等が「進んでいる」東京、本当に【幸せ】なのか?
ジェンダー平等が「進んでいる」東京、本当に【幸せ】なのか?
東京都知事選挙では、予想外の石丸伸二さんの善戦が伝えられる前は、女性対決とも言われていた。
東京都は、実際に、女性の政治進出度は全国でもダントツ一位だ。
また、男性ではもっと有力候補とされる石丸伸二さんも急進的なLGBT推進派でもいらっしゃる。安芸高田市長時代には、マイノリティーへの配慮も理由に婚活事業を廃止しておられる。
東京都は間違いなく日本の中では「進歩的」と言えるだろう。
実際に都道府県別の「政治」のジェンダー格差は東京が最小とされている。ちなみに、「教育」は我が広島県が、「行政」は片山前知事や平井知事のご努力で鳥取県が最小である。
「経済」は沖縄県が最小だが、これは失業率が高く、男性が貧しいという、途上国にありがちな実態が反映されており、注意が必要だ。また、神奈川や千葉、埼玉、兵庫あたりだと、「政治」の男女格差は小さいが、「経済」格差は大きい。これは、大都市近郊で40年近く前から市議や県議等に市民運動経由でインテリの専業主婦の方が議員になられる構造があったからだ。従ってデータの読み方には注意が必要である。
上記のことを留保した上で、確かにそれでも、東京は進んでいると言える。「小池百合子政権」のもとで、子育て支援策は日本一であるのも間違いはない。そうしたことも背景に最近では、若い世代では夫婦ともに外資大手で共稼ぎとか、当たり前田のクラッカー状態だ。
ではそれで、万々歳と言えるのだろうか?ちょっと違うのではないか?
「勝ち組の女性」には日本一良いかもしれないが、そうではない女性にはどうなのか?
極端かもしれないが三つの「例」を挙げたい。
一つは渋谷区のバス停での大林さん惨殺事件だ。
2020年11月16日、広島出身の大林さんと言う女性が、渋谷区内のバス停で野宿をしていたところ、近所の資産家の息子でもある男性に惨殺されるという事件が発生した。そして、この男性も、逮捕後、保釈中の自死と言う形で「獄死」するという二人の命が失われる悲惨な事件となった。
この渋谷区長は博報堂ご出身でLGBT推進派で有名な長谷部健さん。区長与党の会派は女性議員が8人中5人。バリバリのジェンダー平等に見えた。しかし、一方で、野宿者を公園から追い出し、ナイキに開発させるということも進めていた。また、長谷部区長の博報堂時代の上司は副区長としてDX行政などでマスコミに天まで持ち上げられていたが、国民民主党の女性区議に対して、「豚呼ばわり」する事件を起こし、辞任した。また長谷部区長も任命責任は取らない、とした。
ちなみに、この長谷部区長とお親しく、連携事業をやっているのが湯崎英彦・広島県知事である。
なお、長谷部区長は、都内首長による小池百合子知事への出馬要請の動きには加わっていない。背景には、小池知事のバックの電通と、長谷部区長のご出身の博報堂の競合があるとみるの自然だろう。新自由主義者同士でも喧嘩があるのは不思議ではなく、湯崎英彦知事が大昔、大阪府知事の橋下徹さんと育休を巡り、大喧嘩になったのは有名だ。
とにかく、新自由主義を進めつつのジェンダー平等。これが東京の特徴である。そこでは、確かに、勝ち組とか、権力者(長谷部区長ら)に都合がよい女性には良いかもしれない。
しかし、権力者に都合が悪い女性(豚呼ばわり事件の国民民主党区議など)や、庶民の女性には冷酷な面があることも見落とせない。大林さん惨殺の背景に、そういう雰囲気があったのではないかとは言える。被疑者の男性が裁判の結果を待たずに自死したのも、いかにも新自由主義的な結末である。
もう一つは何度か取り上げている小池政権による「スクールカウンセラー」の雇止めだ。校長先生や保護者の評判がいいSCまで雇止め。そして、公募に応募させ、試験を受けさせたうえで不合格。子どもたちにも衝撃が走っている。
結局、子育て支援と言いながら、子どもに関わる労働者は使い捨て。それも非正規で、ということだ。蓮舫候補が、専門職非正規公務員の正規化を掲げているが、その公約自体は大賛成だ。(※わたしは、立憲民主党そのものに対しては広島県政での知事ベッタリや、楾先生梯子外し事件を含めて厳しい見方をしているし、蓮舫氏には小池氏とあまり変わらない新自由主義グローバリストだった過去を反省していただきたい。)
そして、三番目は、あくまで、民間企業での事例である。ある企業に、氷河期世代の女性が応募してきた。それなりの有名大学卒業で、ITのスキルもあるのだが、就職氷河期にぶちあたって、非正規の時期も長かった。また、出産に伴い、退職していた時期もあった。面接官側の30代の男性中間管理職は、
「え、なんで出産で退職しないといけないのですか?うちなんか、俺も保育園の送り迎えや家事をやって、妻と共稼ぎですけど。出産で辞めたということは能力がないのでは?」
などと採用に後ろ向きの発言をし、女性管理職にたしなめられたという。
いまの30代くらいなら、たしかに小池百合子政権による手厚い支援もあるし、夫である男性の意識もだいぶ違う。しかし、少し前は、「保育園不足」が言われていた。また、縦の物も横にしないような男性も少なくなかった時代だ。やむなく、退職と言う女性もまだ多かったことを知らない若手中間管理職が、氷河期世代の女性の応募者に対応している。その結果、氷河期世代の女性が疎外されるということも起きている。
また、氷河期世代の場合は結婚していないという化できなかった人も男女問わず多い。子育て重視の一方で、そういう人たちが疎外される可能性も今後懸念される。
小池氏は、30代の女性で圧倒的な支持があるという。あれだけ子育て世帯にばらまけば、特に勝ち組の30代女性での支持は鉄板どころか劣化ウラン装甲並みになるのはやむを得ない。
しかし、では、40代、50代の女性はどうか?さらに年配の女性はどうか?また、非正規雇用で使い捨てにされる女性はどうか?高齢でも低年金などで働かざるを得ない女性も多い。
人生は子ども時代だけではない。そういう意味で蓮舫氏が、「非正規労働者」に着目したのは良い。ただ、過去の蓮舫氏や立憲民主党の新自由主義的姿勢がブーメランで突き刺さってしまうのも事実。広島県民である筆者は「立憲民主党さんよ、なんでじゃあ、自民党の一部議員以上に、湯崎知事ベッタリなんですか?」と突っ込みを入れたいくらいだ。
それでも、「非正規労働者」に光を当てる姿勢をブレさせるべきではない。 他方で、「若者」にばかり拘り過ぎると、他の年代を取りこぼすことにもなりかねず、もったいない。
「非正規労働者」は若者だけにあらず、氷河期世代もいれば、高齢者(いわゆるバブル世代もだんだん高齢者に突入しつつある)もいる。また、今となっては厳しいのは非正規だけではない。正社員でも食料配布に並ぶ時代だ。
そうした人たちが小池氏に行かなくても例えば石丸氏に賭けてみよう、ということになるかもしれない。非正規の若者に光をあてたのは良かったので、今後、幅広い世代の現場を地味に支える労働者をおきざりにしない、そういう雰囲気を醸し出せるかどうか。都知事選の終盤を左右するだろう。