Smart-IP社 創業記 その5 ~MVVを作る(後編)~
前編はこちらから。Smart-IP社をどんな会社にするか、会社を定義するために、Smart-IP社のMVVを作り始めた。
MVV作成にあたっては、MVV自体の作り方を定義し、MVVを作り、誤解を招かないようMVVを解説するという、3つのステップを踏んだ。
MVVの作り方を定義する
■MVVとは
・定義
会社には存在価値・意義が必要であり(ミッション:M)、それを実現するために5年後、10年後どういう姿に将来なっているべきかを定義する必要がある(ビジョン:V)。
それが定義されていなければ、会社を興す必要も、運営する正当性もない。それらが定義されたうえで、下位概念として我々が何を大切に、何を正義とおくかの価値観(バリュー:V)がある。価値観がなければ、手段に過ぎない「安易な利益追求」に陥り、存在価値の醸成につながらなくなる。
・ミッション
ミッション及びビジョンは①本源的であり、②大局的であり、③差別化されており、④簡潔、すなわち1フレーズでなければならない。
・ビジョン
ビジョンは、ミッションを実現するために5~10年後、我々がどのような組織でなければいけないかを3~5つの要素に分解して表現されていなければならない
・バリュー
バリューは、ミッションを実現するために描いたビジョンのなかの「行動指針」として表現されなければならない。バリューは記憶可能な許容量である7個以内(マジックナンバー)に列挙されるものでなければならない。
こんな感じだ。これらを決めたうえで、Smart-IP社としてのMVVは以下になった(会社HPにも掲載されています)。
Smart-IP社のMVV
・ミッション | Smart-IPが目指すもの
知財業界におけるすべての業務をDXによりアップデートし、
「プロがプロの仕事に集中」できる時間を増やす
・ビジョン | Smart-IP社が組織として求める姿
知財業界の人々に愛されるプロダクトを本気で作る
その為に、必要なリソース(人・金)を確保し、適正配分で開発とセールスを行う
・バリュー |Smart-IP社の価値基準
①プロダクトはスマートに
②オープンな議論と協働を重視
③知財業界をよりよく
④後進の模範となる
⑤全力で仕事を楽しむ
他にも上がった観点としては、
我々にしかできないことに注力する
情熱を燃やせることを行う
全力で学ぶ姿勢
手段を目的化しない(していないか常に内省する)
などがあったが、「他と重複している」とか、「個人差が発生するような価値観や考え方はそれを許容したい(押し付けたくない)」という意見もあり、MVVには入らなかった。
MVVを解説する
MVVは上記の通り簡潔にまとめたが、これだけでは背景や意図が正しく伝わっていかない可能性も考えられたので、さらに詳細な解説文章も作り、社内に公開した。
・ミッションの詳細
これまで我々実務家は業界のメインストリームの業務である「特許明細書作成」をOfficeのWordで行ってきた。これらは必ずしも特許明細書作成に特化したプロダクトではないことから、専用のUIをもったプロダクトがあれば、我々より早く、精度高く明細書作成を行うことができる。
また、多くの環境では、ローカル環境で仕事をする必要があった。クラウド環境で仕事することができれば社内外とのコミュニケーションはより迅速になり、マネジメントも簡便かつ正確に行うことができる。
我々弁理士は技術と法律のプロフェッショナルであり、必ずしも誰もができる仕事ではない。我が国における特許出願のクオリティの底上げを行うためには、プロがよりプロの仕事に集中するための時間を作り出し、より多くの品質の高い明細書を作ることが必要となる。
知財業界におけるすべての業務をDXによりアップデートし、
「プロがプロの仕事に集中」できる時間を増やす
それが我々Smart-IP社の「ミッション」になる
・ビジョンの詳細
これまでも知財業界内に実装されてきたプロダクトはたくさんある。しかし、残念ながら標準になるような圧倒的開発資金、リソースを投下されたプロダクトは多くない(ゼロではない)。我々は、必要なリソース(人・金)を確保し、適正配分で開発とセールスを行うことで、知財業界の人々に愛される、すなわちデファクトとなりえるプロダクトのみを本気で作る組織になる。
・バリューの詳細
①プロダクトはスマートに
直観的に使いづらいものはダメ。直観的に何をすればよいかわかるものはよい。
説明を受けないと使えないものはダメ。説明なく使えるものはよい。
長時間使っていて疲れるものはダメ。長時間使っていても疲れないものはよい。
違和感なく自然に使えるデザインはよい
情報量が多いものはだめ。情報量が最小になっておりまとまっているものはよい。
②オープンな議論と協働を重視
社内の一部の人間だけで議論するのではなく、できるだけ多くの人間(社外含む)を巻き込みながら議論の過程自体も見せる。その過程を通じて、誤りや、懸念点を洗い出せるだけ洗い出し、新しいアイデアや観点も周りからもらうことで、よりよいプロダクト開発、事業遂行に役立てる。また、その過程自体が後進のための参考になるようにする。
③知財業界をよりよく
Smart-IP社は、我々の幸福のために存在しているのではなく、知財業界全体の飛躍のためにその使命を帯びている。我々は、それを実現するための役者に過ぎず、役割を与えられただけの存在であることを自覚する。我々の幸福は知財業界そのものの幸福である。
④後進の模範となる
議論や過程をオープンにし、かつ、そのプロセスが誠実であることで後進の模範にならなければならない。成功した結果だけで憧れを得ることは良しとしない。成功だけではなく失敗も見せ、それに到達した過程に価値を見出し、人間的な成長そのものを後進の最大の参考資料にしてもらうことに重きを置く。
⑤全力で仕事を楽しむ
常に自分は「楽しめているか」を自問自答しなければならない。「今はつらいけど、我慢すれば、そのうち楽しくなる」ではいけない。人生は有限であり、つらい時間を過ごすほど余裕はない。この瞬間瞬間を常に楽しめる姿勢を持ち、楽しめていない場合は、どうすれば楽しめるかを楽しみながら模索してほしい。それでも楽しむことができない時は、Smart-IP社に見切りをつけてほしい。
こんな具合だ。
改めて、どんな会社にするか
Smart-IP社は、2022年03月に「すべての知財業務をDX化する」を合言葉に、知財業界内外からの資本を資金調達で受け入れ、その産声を上げた。
まだまだできたばかりの会社ではあるが、だからこそ企業文化がどうあるべきか、なぜそうなのか、を徹底的に言語化し示していくことを大切に、大事にしていきたい。そんな思いでSmart-IP社のMVVは出来上がったのだった。
(つづく、、、かもしれない)