経営合宿の進め方(1)
経営合宿はおすすめだ、という話
僕はいくつかの会社を経営し、またいくつかの会社で経営顧問をしているが、その多くで「経営合宿」を企画している。会社の役員やボードメンバーと1.2泊どこかに泊まり、ビジョンの確認をしたり、会社全体の事業の見直し等を議論したりする。
半年に1回行うようにしているのだが、経営合宿を実施している会社が全部で4つあるので、それぞれ年2回となると年間8回行っていることになり、2ヶ月に1回以上の頻度で合宿をしている計算だ。出張が羨ましいと言われることもあるが、本当はオンラインで済ませたいし、日帰りにしたいのが本音だ。ただ、泊まりでやるからこそ見えてくる議論の深度があるため、ここは経営者として踏ん張りどころと割り切っている。
先日、知人から「どうやって経営合宿しているのか興味がある。同席できないか」と聞かれた。さすがに合宿への同席はお断りしたが、経営合宿の運営方法や目的などは別に隠すものでもない。聞く範囲だと、特に特許事務所では経営方針が不透明だったり、そもそも経営方針を定めない状態で経営しているところもあるらしい。実務能力があり、よいクライアントが付けば、経営方針などを明確にしなくても事業としては成り立つ側面があるのだろう。それくらい特許事務所経営は参入障壁が高いもののビジネスモデルとしては優秀なわけだが、事業の継続性やそこで働く従業員の雇用や生活を守る意味では、経営の目線を持って運営されるのが好ましいと思う。
実際、そのような問題意識を持っている事務所経営者も少なくないと思うので、そんな方々の参考になればと、僕の行っている経営合宿の運営方法を、何回かの記事に分けて書いてみることにした。まずは1回目。
経営合宿をはじめた経緯
最初に経営合宿を始めたのは、IPTech弁理士法人を設立してからだと思う。資料を見返してみると2019年の4月頃。IPTechの2期目の年に実施したらしい。今から5年ほど前だ。
当時はIPTechの経営基盤作りに躍起になっていたこともあり、経営論よりも、目の前の仕事をさばくためにただむしゃらに働いていた感じだった。特に設立1年目は平均睡眠時間も毎日3時間くらい。ショートスリーパーでもあったので「まぁ、そんなものかな」となんとなく受け入れていた。
そんな生活が1年くらい続いた。仕事にストレスを感じるタイプではないので、基本的には楽しかったけど、目の前の仕事にばかり集中している自覚はあり、「もっとビジョンを練りたい。長期的な戦略も立てないと」という思いはあった。やろうと思えばやれたのだろうが、「リソースがない」を言い訳に後回しにしていた。実際はリソースがないのではなく「やり方」のイメージがついていなかったんだろうと思う。
スティーブン・R・コヴィーの名著「7つの習慣」には「第3の習慣:最優先事項を優先する」というものがある。会社の存在意義や、経営・事業戦略はどう考えても最優先事項なのだが、優先できていなかったわけだ。
しかし、ようやくメンバーやクライアントも集まり、オペレーションも出来上がってきた設立2年目、さすがに先延ばしにするのはいけないと思い立ち、いよいよ始めたのが経営合宿だ。
役員全員で、「なぜその会社を設立したのか」「それが社会的にどう意義があるのか」「どんな仲間を集めたくて、どんな人には船に乗って欲しくないか」など高い視点で議論をした。
しかし、初めての経営合宿は「やり方」「方法論」が定まっていなかった。そのため、今よりも「役員間のコミュニケーション」や「目の前の議論」ばかりで、具体的な戦略をどう作るのか、みたいな話には及ばなかった。この時はこのボードメンバーで事業を軌道にのせられたことが嬉しくて、舞い上がっていたのかもしれない。
経営合宿のやり方を決める
そこで、2回目からは「経営合宿のやり方を決める」ということ自体を決めた。なぜ経営合宿をするのか、何をするのか、当日のスケジュールは、時間効率のために議論テーマの事前洗い出し、アウトプットはどんなものにするのか、アウトプットの資料のフォーマットは、議論のペース配分、経営合宿後の社内周知のスケジュールや方法論など、これらを事前にすべて決めた。初回の経営合宿とはうって変わり、2回目以降は右往左往せずに濃密な時間を過ごすことができるようになった(その分脳の疲労感は強くなったが)。
具体的には、
①当日のスケジュールを文章にする(しおりづくり)
②経営合宿までに事前に議論したいアジェンダを決める
③テーマは「メインアジェンダ」と「サブアジェンダ」に分ける
④メインアジェンダは主に、以下
┗昨年度の総括
┗会社のMVV作成(またはMVVの確認)
┗全社/事業の基本戦略(自社の取り組むべきマーケット定義とコア事業の定義等)
┗5か年の事業計画(特に数値整理)
┗今年度又は来年度の事業計画詳細(定性目標、定量目標の確認)
┗上記目標を実現するための戦略と担当部署(担当者)の確認
┗各担当部署(担当者)単位での目標(定性/定量)と年間スケジュール(月単位)
⑤サブアジェンダは上記に入らないくらいのアジェンダではあるが、日常的に行っている経営会議や幹部会議の議題としては大きすぎるものとする
⑥メインアジェンダを資料に落とし込むための資料フォーマットの用意
⑦議論したいアジェンダを備忘録として投稿できるチャットグループの用意
という具合だ。
経営合宿は、経営についてゆっくりと考えたり、仲間たちと議論するまとまった時間を作ったりすることが難しい人におすすめだ。次回はもう少し踏み込んで、経営合宿で何をするかの具体例を紹介していこうと思う。
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