Smart-IP社 創業記 その9 ~α版のプロダクト開発~
今回は「開発」について。「開発」と一口に言っても、その領域や論点は幅が広く、いろいろなスタートアップが多かれ少なかれ何らかの課題を抱えていたりする。
そこで、今回は、Smart-IP社における初期のプロダクト開発における考え方やポリシーを、苦労話も織り交ぜながら紹介する。
僕自身は以前、コンサルとして、大手メーカーのプロダクト開発マネジメントをしたことはあった。プロジェクトマネジメント自体は比較的得意だったのでなんとかなったが、自身の会社で大規模なプロダクト開発を行うのはこれがはじめてだ。不思議と不安は少なく、どちらかというと「ものづくり」に携われるという意味でワクワク感の方が強かった。
普段IPTech弁理士法人で多くのIT企業と取引する中で、プロダクト開発の現場を実際に覗かせてもらったりしていたこともあり、「今度は自分が作る番だ」という気持ちで取り組み始めることができたのだと思う。
作るのは、「特許明細書作成のアシストツール」、今でいう「appia-engine」だ。バージョンとしては、「α版」。いわゆるプロトタイプである。
フォーメーションを組み、ローコストでα版を開発
まずはプロダクト開発を統括するリーダーを(「テックリード」と呼んだりする)当時のSmart-IP社のCTO(初代)にお願いした。
次に、実際の開発リソースをどうするかも考えなければいけない。外注するか、内部に人材を抱えるか。結論としては外注することにした。
実際の開発規模感や、どういう人材が向くかを検証できていない状況だったため、いきなり雇用のような形で内部で抱えるのはリスクがあった。スキルやリソースを柔軟に調整できるという意味では、外注による開発という選択は悪くないものだったと思う。
開発期間は3か月程度。CTOを中心に、知人に紹介してもらったバックオフィス系業務ツールの開発経験のある開発会社とチームを組みスタートした。
★appia-engine(α版)のフォーメーション
テックリード(内部CTOが兼務)
┗外部エンジニアA
┗外部エンジニアB
┗外部エンジニアC
★一般的なフォーメーションの一例
PdM(企画/プロダクトの最終責任)
┗デザイナー(デザインの責任者)
┗テックリード(開発の責任者)
┗エンジニアA
┗エンジニアB
┗エンジニアC
開発が主導となるフォーメーションは、スピード感などは出やすい。また、開発側が持っているテンプレートや知見をそのまま反映できるため、エコに進めることもできる。
実際に開発自体も予定通り終わり、開発予算も数百万円に収まった。当初の開発予算は1000万円程度を見込んでいたため、想定よりもかなり低い金額に抑えられたことになる。
しかし、出来上がったα版は最終的には「作り直す」ことになった。
α版開発における反省
短期間で、かつ、安く作れるというのはメリットではあったし、「開発体制」の課題も相当程度抽出することができたので、これはこれで意味のあるプロセスだったと思っている。
反省点としては、「事前の議論不足」と「継続的な開発体制の構築」だ。
そもそものプロダクトのコアとなる機能の議論が進んでいない段階で開発に入ってしまったため、出来上がったものが、実務/実用に耐えられる(少なくとも実務をイメージできる)レベルになっていなかった(※α版に関するユーザーアンケートでも多くの声をいただくポイントだった)
事前にデザインレベルで議論せず、先に開発から入ってしまった
中長期的な開発体制の構築を考えると、基本設計の考え方とそれを言語化した資料の格納、データベース構造、コードの格納と連携の仕方などをルール/マニュアルなどに落とし込んだ体制づくりをするべきだったが、そのような動き方ができていなかった
PdMやデザイナー、PMと開発チーム間の進捗や情報共有のルールを明確にしていないため、開発チームの動き方が他の部署から見てブラックボックスになってしまった
ひとえに僕の開発経験不足が原因だった。本来は、自らPdMとなり、どのようなプロダクト設計で、どういう機能が必要で、それはどんなデザインにするかを、リーダーシップを持って進めるべきだった。
また、どこにどう情報を整理するのか、継続開発のためにどのライブラリや言語をどういう理由で使うのか、なども整理して監督するべきだった。
誤解のないように言っておくと、後悔はしていないし、当時の開発メンバーには本当に感謝している。短期間で、金額も最小に抑える形で、「開発体制の課題」の大部分を洗い出してくれたという意味で、必要なプロセスだったと考えている。
このあたりの反省を踏まえて、β版からは、「開発のプロセス」自体を定義することから始めることになる。
(つづく、、かもしれない)