シビルウォー
久しぶりに映画館で観るべき映画を観たという感じです。すごい。
しかし、映画アプリの口コミを読むと、結構ネガティブな意見が多いのにビックリしました。映画の感想は人によって180度違うのを実感しました。
私としては、今年観たDUNE Part2を観た後はうち震え、映画を観続けてきた良かった~、と思いましたし、(PERFECT DAYSも相当感動したのですが、)この映画も見終わった後、凄いもの見ちゃったなぁと単純に嬉しくなりました。
政治映画と思っていたら、ジャーナリズムとは何か?を問う映画といえるでしょう。
主人公のリー(キルステン・ダンスト)の冷めたまなざしは、それまでの戦場で凄惨なものを見てきたことを物語っています。彼女に憧れて戦場カメラマンを目指すジェシー(ケイリー・スピ―二―)が、人がリンチされて吊るされている場面を見てショックを受けている様子を見て、リーが言う「理由なんかは考えずに、ただ記録すること」というセリフは意味深いです。また、リーは、師匠でもある先輩記者(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン。DUNEにも出てましたね)に対し、「世界の悲惨な戦地で写真を撮ってきたのは、祖国にこうならないでほしいと思ってやってきたのに、こんなになっちゃって」(アメリカが内戦になったことを指す)とつぶやきますが、戦場カメラマンの気持ち、大義ってそうなんだ、と感心しました。
キルステンさん、スパイダーマンシリーズの主人公のお相手の女性役ででていましたが、その時はお姫様キャラじゃないよなと思っていましたが、本作では先ほどのまなざしといい素晴らしいです。
リーの相方を演じる、ジョエルは男性記者ですが、戦場に入る前の夜はものすごく興奮するとか言っていて、最初に戦闘に同行したシーンではエキサイトしていましたが、その後、仲間が殺されて他人事ではないと戦場のリアルを実感した様子が描かれていました。多分、戦場に潜入するという体験はスリリングで血沸き肉躍るというの気持ちもあるのでしょうし、真実を伝えるという大義とは別に、個人的にエキサイティングなのでしょうが、そういうジャーナリズムの生の、道徳的とは言えないものの、アドレナリンが噴出する快感みたいなものもあるのだろうと想像します。そういった明暗の両方を描いた描写にはリアリティがあると感じました。
ヘンダーソン演じる高齢のベテラン記者は、リーたちにとっても頼りになる存在で、彼の経験がもたらす勘の鋭さを頼りにしています。彼が亡くなった後に、リーが彼は常にそばにいてくれる人だった、と述懐していますが、まさにそういう雰囲気の演技をしていました。流石の存在感です。
この映画に対しては、口コミでは、内戦に至った経緯が描かれていないとか、前半の主人公たちの動きがゆるいなどのマイナス評価もありましたが、私としては、全編のめり込み、恐ろしさにびくびくしながら釘付けになるインパクトのある映画でした。ワシントンDCに車で向かう途中で巡り合う人たちがみんなが恐ろしく見える。誰がまともか全く分からない恐怖。一番怖かったのは、映画のトレイラーにも使われているシーンで、主人公たちを機関銃で脅しながら「お前はどういうアメリカ人だ?」と聞く兵士。主人公のダンストさんの夫の、ジェシー・プレモンスという俳優が演じていたと知りましたが、マット・ディモンに似ています。彼がいつ撃ってくるか分からない、変な返事をしたら直ちに殺されるという不気味さがこの映画の一番の見どころでした。短い出演でしたが、もっとも印象的なシーンでした。はっきり言って、エイリアン・ロムルスよりも、緊張しながら張り詰めた気持ちで映画を観続けました(なお、ケイリー・スピー二―はエイリアンにもでていたので、売れてますね)。
この映画の作りの上手いところは、視点となる人物が、ベテランの有名戦場カメラマンのリーと、彼女に憧れて戦場カメラマンの見習いジェシーという新旧の人物を設定していることですね。リーは、中年で、この仕事に疲れ始めているのに対し、ジェシーは段々と場数を踏んで、冷静、冷徹に人が死んでいく場面を撮影できるカメラマンになっていく。それを果たして、「成長」と呼んでいいのか、それとも「麻痺」なのかを考えさせる意味でも、ジャーナリストという職業の本質に迫ります。ベトナム戦争などでは迫力ある戦場の写真が数多く撮られていますが、こういうしんどい過程を踏まないと記憶に残る戦場写真なんかは撮影できないものなのでしょうね。
最後の戦闘シーンも大迫力でした。自分がカメラマンやジャーナリストとして感情移入してしまっているので、独立軍の兵士たちのすぐ後ろにくっていて戦闘の第一線に行くなんて信じられないの一言。本当の戦争ではどうなのだろうかと考えさせられます。ホワイトハウスもぶっこわされ、大統領専用車ビーストも物凄い攻撃を受けてやられます。戦場にいるかのような臨場感でした。
あと、音楽の使い方がとんでもなく上手い。えぐい場面でも、ちょっとのんびりしたロック、カントリー風の曲でさりげなく見せてくれます。どの曲も素晴らしく良かったので、この選曲をしたした方のセンスを尊敬します。
最後に、ホワイトハウスの執務室で隠れていた大統領を殺した後で、その死体を前にポーズしてにっこりする四人の兵士のモノクロ写真がエンディングで流されます。よくイラク戦争のときの思い出の写真とかいって映画やニュースで出てくる構図なのに、その前に大統領が倒れているというシュールさには、なんというか笑えないというか、皮肉な感じで、これまたやられました。
私としては、今年のナンバーワンで観るべき映画と思います。