【映画】落下の解剖学ー夫婦関係を考えさせる問題作ー
映画館で観ようと思っていたものの見逃してしまい、アマゾンプライムで観ました。
2023年のカンヌでパルムドールをとっただけあり、脚本がよく練られています。ストーリーとしては、フランス人の夫とドイツ人の妻が、夫の故郷である山の上の小屋で暮らしていたところ、夫が上の階から落ちて亡くなります。妻が殺人犯として起訴され、その裁判の過程で夫婦関係が暴かれます。夫婦の関係が、法廷で再現され、お互いの口論を通して浮かび上がります。対話劇でもあり、色々と考えさせられます。シリアスですが、大人の作品です。
夫婦は二人とも小説を書くけれども、妻は作家として成功している一方、夫は上手く行かずに、教師などをして暮らしているものの、うっくつとした日々を送っている。夫は、家のことをこなし、子どもの面倒を見るも、小説にばかり時間を割く妻に不満を抱く。ヨーロッパ人の夫婦なので、男女が対等というのが建前なのでしょうが、夫の方は妻に嫉妬していることが分かります。それは、単純に妻の職業的成功を恨んでいるのか、それとも、根底には男性が優位にに立ちたいという心情があるのか…。
法廷では、夫が秘密で録音していた夫婦喧嘩のテープが再生されます。夫は、うつ病になっているので、妻にからんでいき、「小説のアイデアを盗んだ」などと非難するのは格好悪いとは思うものの、妻の方も、「私はあなたに家事をやってくれとは頼んではいない」とか、「あんたの故郷のフランスの山奥に住み、こっちは慣れないフランス語を話して暮らしてんだ」、「あんたは、アイデアを小説としてものにできなったから、私に譲ったんだ」などと厳しい言葉を投げかけます。妻の方が言ってはいけないセリフをいくつか言ってしまったように思います。
二人の息子の証言が裁判の結果に重要な意味を持ちます。息子役の子役はどこかで見たような気がしますが、上手です。途中、ある実験をするために、愛犬に睡眠薬を飲ませますが、ワンちゃんが死にそうになった時には、犬好きの私としてはドキドキしました(安心してください!復活します)。
それにしても、息子が裁判を傍聴して、お母さんがバイセクシャルだとか、男とも女とも不倫をしたとか、聞かせたくないよなぁ。
妻役を演ずるのはサンドラ・ヒューラーです。ナチスの収容所映画「関心領域」で収容所長の妻を演じていた、実力派女優です。本作でも上手い。夫役の俳優も良かったですが、お名前は分かりませんでした。妻の弁護をする弁護士はスワン・アルローで、フランス人っぽいセンスの良い感じです。
フランスの裁判の様子もうかがい知ることができます。ある程度リアルだとすればですが、相当いい加減に感じました。あの程度の証拠で、妻を殺人罪で起訴するなんて。検察側の唯一の証拠は、まゆつばの学者の証言による、血痕から推測した妻の暴力とは。検事役の弁論の巧みさ、いやったらしさは印象的でした。
ネタばれですが、エンディングでは、夫の自殺と分かり、妻に無罪判決が下されます。最後に、実は奥さんがやっていたなんてことが明かされたりすると陳腐な結末になりますが、そんなことがなくて良かったです。
重いテーマですが、夫婦について考えさせる良作です。