ボーはおそれている
アリ・アスター監督が作っているのを、公開終了後に知り、アマゾンプライムで観ました。
監督は、ミッドサマーで、最高のホラーの作り手という地位を確立したように思います。その前のヘレンンディタリーは、知人にビデオを借りていたのですが、途中であまりのおぞましさに断念してしまいました(折角借りたのにすみません)。
本作はもなかなか大変な映画で、体力と気力がないと見通せません。安易な気持ちで見始めるととんでもないことになるので、よほど映画好きかアスター監督好きでないと辛いのでは。
私としては、アスター監督の色んな思い、今までやりたいと思っていたことを盛り込んだのではないかと感じられ、彼にとっての記念碑的映画だろうと思います。支配が強すぎる母親は、彼の幼少期の実体験なのか、そうでないとこんなに迫ってくるものにならないのではないかという印象です。いずれにせよ、彼が監督として成功したからこそ、やりたいことができた映画だと想像します。
あと、全般的に感じられるのは、キリスト教的価値観がもたらす人々の考え方に与えるストレス、厳格なモラルや規範から受けるプレッシャーです。最後の審判の場面は、まさにそこが映像化されたもので、検察官役の隣には主人公の母親もいて、彼を責める側です。キリスト教の影響が強いアメリカ社会の根底となる部分を感じさせます。
なお、この審判の場面は、もはやホラーの世界ではなく、罪悪感とか善行とは何かみたいな哲学的、宗教的なテーマになっています。日本人で、キリスト教に詳しくないと、今一つピンとこない演出かもしれません。
ホラー的要素としては、主人公が元々住んでいるアパートの目の前の通りには、上半身裸でずっと踊っている男、全身タトゥーの男、全裸でナイフを振り回して叫んでいる爺さんとか、ヤバすぎます。
たまたま主人公を撥ねた車を運転していた外科医夫婦が助けてくれますが、奥さんが実は優しそうでいながら、厳格なキリスト教徒で、しかも息子が戦死してしまっておかしくなったのか、不気味さを覗かせます。いつ爆発するかと思っていると、娘の自殺を主人公のせいと決めつけて本性を現していました。その奥さんの命令を受けて、主人公を追いかける、外科医夫婦のイソウロウも怖い。戦争に行って精神的に病んでしまい、今でも敵と戦っている妄想に取り憑かれていますが、イソウロウ先の奥さんの指示を受けて主人公を追い詰める様は、恐ろしさ抜群。
それと、外科医夫婦の娘も、相当のいじめっ子ですが、急にペンキを飲んで主人公の前で自殺するとかおののきます。
心理的怖さでいえば、主人公の母親が、性的行為を息子がしないようにするために、父親は性行為をすると死んでしまう遺伝子を持つ家系だと教え込むというのも、おぞましいぐらい怖い。
なお、少年時代の初恋の人に母親の葬儀で数十年振りで会った主人公が話しかけると、いきなりベッドに行ってしまうという展開には、驚き。あの場面は主人公の妄想という指摘も口コミではありましたが、そんな都合の良いことは起こらないでしょうってくらい非現実的だけど、心のどこかで初恋が成就することが現実であつてほしい期待してしまう面もあるかも。
結論として、普通のホラー映画の枠にとどまらない、宗教的、哲学的ホラーともいうべき映画でしょう。
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