【書評】ことり野デス子『漫画家と異星人』
TwitterやInstagramで話題になった、ことり野デス子さんのコミックエッセイ『漫画家と異星人』。
漫画家であることり野さんと、その旦那さんの婚活・馴れ初めのお話が描かれています。
親しみやすく可愛らしいイラストに惹かれて読み始めたのですが、内容もとても素敵で……。Twitterから知ったのですが、続きを読みたい気持ちが強くなってこの漫画を読むためだけにInstagramに登録したほどです笑
既存の恋愛観に囚われず、お互いを尊重しながら恋愛されているその姿勢にとても感動して、何度も読み返してしまうほど大好きな作品になりました。
今回は、この漫画の魅力を少しでも紹介できたらいいなと思っています。
本書の概要
基本情報
タイトル:『漫画家と異星人-漫画家が婚活で数学者と出会った話-』
著者:ことり野デス子
出版社:KADOKAWA
ページ数:111p
価格:1,300円+税
ISBN:978-4-04-733463-2
あらすじ
おすすめポイント・感想
結婚相手に求める条件。共通点の多さは重要?
恋愛や婚活・マッチングアプリに関して、相手に求める条件とか共通点の多さとかってよく話題に上がると思います。
例えば、年収だったり、金銭感覚だったり、性格だったり、趣味だったり、食べ物の好みだったり……
心理学では、類似性の原理というのがあり、人間は相手に自分との共通点を見出すと好感を抱きやすくなると言われています。
なので趣味や価値観が一致している人に惹かれるのは当然のことのように思いますし、そういう人を求めることはとても自然なことだとも思います。
ただ、個人的には共通点の多さというのは時に問題も生じさせてしまうなと感じています。
「共通点が多い=運命の人」
みたいな式が出来上がってしまっている人が一定層いると思っているのですが、この「運命の人」というのは気を付けないと相手に対し勝手な幻想を抱くことになってしまうことがあります。
私とあなたは、価値観が似ているから、何も言わなくてもきっと私のことを理解してくれる。いつでも私が求めるものをあなたは満たしてくれる。
ーというような幻想です。
もちろん、本当に相性がよくて見事なまでに合致して何の問題も起きず幸せになっているカップル・夫婦もいるのかもしれませんが、そういうのはごく稀だと思います。
いくら共通点が多くても、違う環境、違う時間を過ごしてきた人間同士です。違いがあって当然ですし、そんな二人が関係を深めていくためには、その違いを認め合ったり、お互いの考えをすり合わせたりする必要があるように思います。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここから本の内容にも触れていこうと思います。
ことり野さんが相手に求める条件は3つありました。
➀猫が好きな人
②パソコンに強いこと
③メガネであること
この3つの条件、結構面白いなと思いました。
➀は共通項、②は自分にないもの(相補性の原理)、③は外見
なんですよね。
共通項の原理の他に恋愛で大事だといわれている、相補性の原理。自分にないものを相手が持っていて、互いに補い合えるような関係のことで、これも人間関係がうまくいく一つの法則だと言われています。
急速に関係を深めるには共通項も大事なのかもしれませんが、自分にないものを相手が持っていて、互いに補い合えるという事も関係を続けていくには大事です。「違い」というのはトラブルのきっかけにもなるのですが、見方を変えれば自分の価値観を広げることにもなりますし、どれだけ違いを尊重できるかということも大事だと思うのです。また、苦手なことを無理に克服する必要はないと思っていますし、お互いを補っていける関係はとても素敵だなと思います。
あと、外見を重視するかどうかという問題もよく上がってきますが、個人的には外見にこだわりを持っているのも決して悪いことではないと考えています。
相手と関係を続けるには、当然のことながら相手のことを好きでないと難しいですし、じっくりと相手と対話しようと思えるようなモチベーションが必要です。相手の性格が好き!というのもいいと思いますし、同時に外見が好き!というのも、相手と対話し続けるモチベーションに繋がるのであれば大切にすべきだと思います。
相手を好きでいるためにどれだけ努力できるか、というのが大事だと思うので、その動機は(相手を搾取するようなことでなければ)何であってもいいのではないでしょうか。
さて、ことり野さんには結婚相手に求める条件が3つあったのですが、対して「異星人」こと数学の先生はというと…
全ての項目で「気にしない」!!!
年収も容姿も体型も結婚歴も全て気にしないとプロフィールに書いてあったそうです。
後に、ことり野さんがこの真相を尋ねるのですが、その回答があまりに素敵でした。
「全て気にしない」には驚愕しましたが、先生のこの回答には共感するところもありました。私自身も「相手には好きなことをして欲しい」という思いはずっとあったからです。たまに恋愛が”束縛”や”不健全な依存”になってしまっているカップルを見ることがあるのですが、そういう関係はとてもしんどそうだなと感じていたし、自由に生きている相手から色んな刺激を受けたいと思っていたからです。
恋愛は一見「閉じる」ことのように見えますが、本当の恋愛は「閉じることで開かれる」のではないかと思っています。この人と決めて関係を深める行為は「閉じること」ですが、一人の人と真剣に向き合うことは、世界を広げ、様々な人と向き合う事にもつながると私は考えています。
結婚や恋愛に求める条件について改めて考えてみると面白いかもしれませんね。ただただ共通点が多ければいいということではなさそうです。
ことり野さんは婚活中に共通点が多い人と出会ったようですが、その人とはどこか合わずお断りしたことがあると書かれていました。趣味や好きな事が共通していても、カテゴリとしては一緒でも微妙に観点や方向性が異なることは多々あります。これをことり野さんは「解釈違い」という言葉で表現されていました。「大枠だけを見ない」ということも大事なのかもしれませんね。
私自身、友人関係を振り返ってみても、ずっと仲良くしている友達に限って共通点が殆どなかったりします。まったく趣味が違うけど、お互いに自分の好きな事を好きなように話して、相手の話も嫌がらずに聞く。そういう関係性って結構いいなと思っています。
恋愛の形・常識にこだわらない、ということ。
ことり野さんと先生の恋愛は、ある程度出来上がってる(社会が作り上げた)恋愛の形というものから逸脱しているものが多いなと、この作品を読んでいて思いました。そして、そこがすごく魅力的だと感じました。
例えば、付き合ったらこういうところでデートして、手を繋いで、その次はキスして…みたいな順序があったり、デートでは男性がリードするものみたいな考えだったり…そういう恋愛の形に囚われていないんですよね。
ことり野さんも先生もとても柔軟な見方でお互いを受け入れて、二人に合った恋愛の形を模索されているのがとても素敵で、これもこの本の見どころだと思います。
デートは男性がリードするもの、と考えている人って結構多いんじゃないかと思うのですが、ことり野さんたちの場合は、ことり野さんの方がデートプランを考えておられるようです。
ことり野さんは、「お店を探したり地図を見たりするのが大好きなんだ!だからデートは全部私が考えたい!」と言っています。
”得意なことは得意な人が受け持つ”という発想がとても素敵だなと感じました。
手のつなぎ方で試行錯誤する様子も描かれているのですが、最終的に行き着いたのが「腕組み」で、先生がことり野さんの腕に腕を回して掴むというスタイルをとられています。
腕組みといえば、大抵の人が女性側が男性の腕をつかむ形をイメージすると思うのですが、お二人はその逆を行っていて、そしてそれを互いに納得して受け入れているところがとても素敵だなと思いました。
恋愛はこうあるべき、男性/女性はこうあるべきみたいな考え方に縛られずに、お互いの得意や性格を尊重しながら二人だけの形を作り上げていくというのが恋愛においては大切だな、と改めて思いました。
まとめ
可愛いイラストで、ふふっと笑えるようなほっこりする内容でありながら、恋愛や結婚について考えさせられる素晴らしい作品だと思います。
何より、ことり野さんと先生のお二方の考え方やものの見方が本当に素敵なんですよね。
恋愛の常識にとらわれてしまっている人にこそ読んで欲しい作品です。
本作の9割ほどはInstagramで全て読むことができるので、気になる方はことり野さんのアカウントをフォローして読んでみて下さい。
Instagramで読めるのに本を買う必要ある?と思われる方もいるかもしれませんが、書籍・電子書籍だけの描きおろし作品も少し収録されていて、それもすごく面白いのでお金を出して買う価値は十分にあると思います。本だと気楽に読み直せますしね。自分は布教するのにも役立てています(家に本を置いていると読んでもらいやすいので笑)。
というわけで、今回の書評はこの辺にしようと思います。
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