【門の外にいる僕】二話
※やや残酷な描写を含みます。
※グロテスクな表現が苦手な方はご注意下さい
「違う、ああ、悪くないんだ、お前が………
違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う…
あああああああああああああああああああああ
俺はなんて、ああ、こんな、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!
違うんだ、これは俺じゃない」
僕は傍観する。
まさに地獄絵図。
かつてヒトだったものは、面影すらない。
脳を、腸を、引きずり出され、四肢は筋繊維と神経が切り裂かれ、骨は砕かれている。
それでも尚、心臓は脈を打つ。
心臓は死を自覚していないのだ。
そして、その心臓すらも握り潰された。凝固しかけた血液と筋肉の固まりと化したモノがグチャリとグロテスクな音を立てて落下した。
数時間後、サイレンとともに警察が到着。
「これは…」
言葉を失うしかないだろう。
破壊の限りを尽くされた人体を見ればそんな反応になるのだろう。
僕は、幾度となく見た。
破綻していく人格、侵食する異常。
行商人だろうか。色付きの硝子玉に金細工の装飾品が目を引くが売ってる本人はくすんでいる。着ている物は汚れてはいない。ただ目深に被った帽子で見えない顔や彩度の低い色合いの着物に本人の雰囲気がそう感じさせるのだろうか。いや、首から下げているカメラだ。細かい傷がついた錆色のカメラが一層くすんでいる。
「これなぁに?」
色とりどりの硝子の前に立ち止まったのだろうか、幼い少女が手を伸ばす。
「こら。高価なものだから触っちゃだめよ」
母親らしい女性が少女を遠ざける。
「別に触っても大丈夫だ。そう簡単に壊れはしない。…お一ついかがですか?」
最後の言葉は取って付けたようだった。
「こんなに高価なモンはあたしには勿体ないよ。」
女性はカラカラと笑いながら顔の前で手を降ると、少女の手を引き歩いていった。
朱色の帯をヒラヒラと揺らしながら少女は行商人に手を降った。
「あぁ、また降ってくる。」
「雨なんか降りそうにねえよ、兄ちゃん」
そう、晴天だ。雲一つない。
「あぁ」
彼の目は何かを見ていた。
遥か上空、いや、空の向こう側より来るモノを観測した。
「ん?なにか降って…」
「先生、どうしたんです?」
「いや、何か落ちてきた気がするんだけど…気のせいみたいだ。」
穏やかに微笑む彼は医者なのだろうか。手際よく次々に薬草を煎じていく。
「疲れているんじゃないですか?」
「はは、そうかもしれないね。医者が病気になってしまっては笑い話だな」
音も立てずに日常が再び崩れる。
「今のところ急な患者さんも来ていませんし、少し休んできては?」
「あぁ、そうだな。うん。そうしよう」
そう言って彼は立ち上がり、奥の部屋へと向かった。
「最近忙しかったからな。」
独り言のように言葉が出る。
「流行り病、とも違うか。…五感の異常、痛み、身体的異常は見られない、か。精神的なものか?」
独り言を呟きながら医師はゴロリと横になる。普段であればきちんと蒲団を敷き、寝巻きへ着替えるが臨時の休みとあればいつ急患が来るとも知れない。
「あぁ、辛いものは全てボクが無くしてあげるよ。大丈夫…力を抜いて」
ズルリと糸が抜け、苦しそうだった呼吸が静かに穏やかになる。
「やっぱりか、もうここまで侵食が進んでいる」
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