桜のお話
何故か毎年、彼女達に日本中が注目を浴びせる。
彼女達が花開けば、春の訪れを感じるからなのかは知らないがこの国ではそうなのだ。
染井吉野、山桜、江戸彼岸桜…
桜といっても彼女達はたくさんいる。
ところで、何故僕が桜を彼女というのか気になったかい?
気になる人は僕の昔話に付き合ってくれ。
僕は友達がいなかった。
元々人が好きではないし、関わりたいと思える人もいなかった。
僕の故郷は中途半端な田舎だった。駅に近くなればそれなりに人工物も多くあったと思う。ただ、僕の家の回りは田んぼと畑と梅や桜の木があった。
彼女達は春になると、来た。
彼女達が来るから春になるのか、春になったから彼女達が来るのか、気になって聞いたことがあった。
彼女達はこう言った。
「そんなこと考えた事がない」
だから僕も気にしなくなった。
僕は彼女達が来るから春になるのだと思っていた。
彼女達はいつも透き通るような存在だった。僕は彼女達と共にいた。
毎年、彼女達は現れて消えていった。
「また来年も会えると良いね」
そもそも、彼女と言っているが性別なんてないのかもしれない。特に名前もないから、僕も気が楽だった。
何十回と春が来て、去っていった。
そして、ある日僕は死んだ。
当然だ。
僕はふらりと魂だけの存在になった。
死んだのは、雪が降る日だった。
そのまま魂だけで冬を過ごして、
彼女達がきた。
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