ゼロコロナとwithコロナ
追記(2021-3-10) 動画はここ(ryseto.github.io/COVID19)から.
国がどこを目指せば良いのかを考えるの絵を書いた。
傾斜にボールがあり支えないと転がり落ちるという絵。この坂の目盛は,日毎の新規感染者数を表す.感染状況はこの数字で把握している.
傾斜の傾きは一定.ボールに働く力が一定ということだ.数字が10のところも1000のところも同じ傾きは直感に反するかもしれない.少し説明する.
対策が弱いと感染者は増加し、対策が十分だと感染者は減る.ボールに働く重力に逆らって,対策の力で支えている.つりあうと感染者は増加しない.坂の登り降りの速さはこの力の差に比例するとする(注)。対策の力は、自粛や経済活動の制限など経済的な負担に対応する。(医療費など患者数に比例するものは全体の経済損失に比べると小さいので無視する。) 一人の感染者が平均何人に感染させるかという数は,全員の行動変容で変わる。東京全体の感染者数が何人でも変わらない.感染者がたった1人でも、パンデミックが終わったような生活に戻ればその人が何人かに移すだろう。その1人が他の1人だけにしか移さないためには、街全体で自粛を続ける必要がある。つまり東京全体の感染者数が何人でも、感染者を一定に保つ対策による経済負荷は同じ.これが傾きが一定の理由だ.(検査と隔離は「押す力」をサポートしてくれる。検査能力が有限の場合,感染者数が少ない方が効果的で,上に行くほどサポートしてくれると言えるかも.)
気をつけて欲しいのが坂に刻んだ目盛.対数スケールになっている.つまり1, 2, 3 という数え方ではなく,1, 10, 100という数え方.同じ強さの対策を続けて感染者数が減っていく時,1000人が100人に減る時間と100人が10人に減る時間は同じくらい.このように目的地までの距離感は,この坂の距離と考えていいけど,対応する数字は1000,100,10 という減り方になる.(感染者数が指数関数的に増えるとか倍々で増える言われる状況は,一定のペースでこの坂を下っていくこと.)
with コロナがゴールなのか.上に書いたように,経済負荷は感染者数に依存しないので,日毎の感染者数が何人になれば十分という数字はない.毎日10人しか感染者数が見つからないときでも,その10人という数字を一定に保つためには全員が自粛を続けなくてはいけない.10の辺りと、1000の辺りにいることを比べると、同じ力なのでもちろん前者の方がいい。でも力はいる。それがwithコロナ。
感染者が市中から本当に居なくなれば感染は起こらない。感染している人が活動しているから他の人が感染する。いなければ感染は起こらない。この場合はもう自粛をする必要がないので経済活動を再開できる。力を入れなくても下がっていかないのでそこは平。これがゼロコロナ。
このゼロコロナに到達するのは不可能ではないけど簡単ではない。目盛が対数スケールというのは、10から1まで減らすために、1000から100までと同じくらい頑張る必要がある.また、検査でわかる感染者数は無症状感染者も含めた本当の感染者数ではない.坂に書いた目盛にも適当に0を書いたけど,それは見かけのゼロ.隠れた感染者はやはりいる.真の0までまだちょっと距離があるということも上の絵は表現している.そのゴールが明確なら最後のステップはスピードアップできると思う。少しでも症状がある人を全員検査して,接触者を追跡するなど。
ゼロコロナの維持も簡単ではない.でもその対策は経済活動の負担を伴う「力」ではない.坂の上の平らなところから落ちないように注意するというイメージだ.つまり,水際対策や検査.ほんの少し坂に落ちてしまっても,気がつくのが早いほど上にすぐに戻れる.
注:「ボールが動く速さは力の差に比例する」は大事な仮定.この絵の通りなら,例えばボールを支えるの止めたら下に向かってどんどん速くなりながら転がっていくだろう.このアナロジーは正しくない.感染者数の変化にはそういう「勢い」がない.支えるのを止めた場合はある一定の速度で転がり落ちるだけ。ただし,坂に刻まれた目盛のとおり10, 100, 1000, 10000という増え方になる.
注2: 本来の運動方程式が従うのは現在の感染者数,つまりSIRモデルのI. 感染初期はd log I(t) / dt = γ (Rt - 1) に従う.この式を力学的に解釈をしている.つまり,粒子の位置を x = log I(t).その速度を v として,この速度に比例する抵抗力と γ (Rt - 1) が釣り合うオーバーダンプの運動と思えば解釈ができる.ボールに働く力はγ(Rt - 1).Rtは実効再生産数.対策をしないときの再生産R0は1以上で,下向きの力になっている.対策によって,Rtを小さくすることを,この記事では「力」と表現している.普通の力学なら対策も力のベクトルで足すことで合計の力を決めたいけど,そのアナロジーは残念ながら成り立たない.対策は接触機会を減らすなどで,対策の強度をs とすると(1-s)のような因子が再生産数につく事で下向きの力が弱まる.あと,実際に得られるデータは新規の陽性者数.これは新規の感染者数に比例するだろう.そして,それは感染者数 I(t) に比例する.だから,新規の陽性者数の変動も同じ釣り合いの式に従うと近似的に考えている.
この絵のイメージは牧野さんのこのツイートを見たのがきっかけ.
押川さんからボールを押す人を追加することを提案していただいた.
この絵と説明は自由に使ってください.クレジット不要です.もちろん単純化なので注意は必要ですが,感染状況や対策についてイメージしてもらうのに役立つと信じています.(問題があるなどの指摘はツイッター ryseto やメール seto[at mark]wiucas.ac.cnでお願いします.)
変更履歴
2021-3-5 図を修正
2021-3-8 注2の力学アナロジーの補足説明を修正.
2021-3-10 動画を置いたウェブサイトへのリンクを追加
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