3分でわかる宇宙資源をめぐる法律
水の発見
宇宙には、レアメタルや水などの資源があるとされますが、昨日、小惑星リュウグウの地表から水成分が発見されたことが明らかになりました。水からは水素を生成できるため、将来的に液体燃料としての活用が期待されます。宇宙には他にもレアメタルなどの資源があるとされますが、今回は、宇宙資源をめぐる法律上の考え方を取り上げます。
宇宙資源は誰のものか
そもそも宇宙資源を獲得できたとして、それは誰のものになるのでしょうか?宇宙条約は以下のように定め、天体の所有を禁止していることから問題となります。
月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。
そうすると、資源は天体にあるわけですから、資源も天体と同じように所有が禁止されるとも考えられそうです。
もっとも、宇宙条約には宇宙資源の所有について明確な規定はありません。
そうすると、
①禁止されていない以上所有できる
②天体の領有が禁止されている以上、その資源も同様に所有できない
という選択肢が考えられます。
Lotus号事件
ここで参考になるのが国際法の先例です。
1926年、トルコへ向かっていたフランス船Lotus号がトルコ船と衝突し、トルコ船は沈没、トルコ人乗員と乗客が死亡したという事件が発生し、刑事裁判で争われました。
というのも、Lotus号がトルコに着いた後、トルコ警察がLotus号に乗り込み調査、フランス人乗員を逮捕し、イスタンブールで裁判となったことから、「トルコに裁判管轄権があるのか」が争点となったためです。
最終的にトルコに裁判管轄権はあるとされ、この裁判をきっかけに、「国際法上の禁止規範がない限り、国家がその領域内で管轄権を自由に行使できる」という原則、いわゆるLotus原則が導かれることとなりました。
Lotus原則をそのまま当てはめれば、宇宙条約では宇宙資源を所有することは禁止されておらず、宇宙資源を所有することは可能と考えることもできそうです。
なお、国際宇宙法学会(International Institute of Space Law)からは、現在の国際法の下では宇宙資源に対する所有権は否定されないとの声明文が出されており、宇宙条約が作られた際も、宇宙資源の所有禁止は前提にされていなかったようです。
月協定
他方で月協定は、「月及びその天然資源は人類の共同財産」とし、「月の天然資源の開発が実行可能となったときには適当な手続を含め、月の天然資源の開発を律する国際レジームを設立」することとされ、宇宙資源の所有権が否定されています。
しかし、月協定を批准している国は少なく、日本もしていません。
月協定については過去に取り上げていますので、併せてご覧ください。
各国の状況
1 アメリカ・ルクセンブルグ
アメリカでは2015年に商業宇宙打上げ競争力法が制定され、個人に宇宙資源に関する権利が認めらており、2017年にはルクセンブルグも個人に宇宙資源に関する権利を認める法律を制定しています。両者の違いは、アメリカの法律では占有・所有・輸送・使用・処分といった権利の内容を具体的に定めているのに対し、ルクセンブルグの法律は私人が宇宙資源を取得できるとだけ規定している点です。
2 オランダ
オランダのライデン大学では、宇宙資源のルールをめぐるワーキンググループが設立されています。
このワーキンググループでは、宇宙資源開発が条約と整合的に進められるための関係国・関係機関の監督責任、宇宙資源探査の優先権を確保するための国際登録システム、宇宙資源保持のための権利の相互承認、宇宙資源開発の有害な影響の回避などが議論され、国際的コンセンサス形成のためのたたき台が作られています(出典:宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 P.279)
課題
ライデン大学ワーキンググループでの議論に加え、開発途上国への宇宙資源を再分配することをどう考えるかという問題もあります。
全ての国が宇宙資源開発を積極的に推進すべきと考えているわけではなく、アメリカやルクセンブルグの法律制定を良く思っていない国もあります。
というのも、宇宙活動を積極的に行い、技術・開発が進んでいる国は良いのでしょうが、そうでない国からしたら面白くありません。そのため、宇宙資源は技術が進んでいる国が独り占めすべきではなく、開発途上国もその分配を受けられるようにすべきだという議論が出てくるのです。
このような議論は宇宙資源に限らず今後も出てくるものと思われ、ルールメイキング時の考慮要素の一つとなりそうです。
参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド 第一東京弁護士会
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