3分だとわからない宇宙条約とデス・スター
アメリカが軍事宇宙ステーションを必要としているという記事です。
どこまで真面目かはさておき、軍事宇宙ステーションというともはやSFの世界のようです。
ところで、宇宙をテーマにしたSFの金字塔といえばスターウォーズです。
スターウォーズは、遠い昔、遥か彼方の銀河系を舞台に繰り広げられる帝国軍と反乱軍の戦いの物語(エピソード7以降はファースト・オーダーとレジスタンスの戦い)です。
作品中、帝国軍を象徴する兵器の一つとして「デス・スター」が登場しますが、今回は、宇宙条約の批准国である銀河帝国がデス・スターを建造したという仮装事例をもとに、宇宙条約との関係でどのような問題があるのか検討してみたいと思います。
デススターの基本性能ー「究極兵器」
まず、ウーキーペディアをもとに、デス・スターの基本スペックをみてみましょう。
デス・スター(Death Star)は初代デス・スター(Death Star I)、DS-1プラットフォーム(DS-1 platform)、究極兵器(Ultimate Weapon)と呼ばれることもあった、衛星大の深宇宙機動性バトル・ステーションである。一撃で惑星を破壊することが可能なスーパーレーザー砲を搭載していた。銀河帝国はこの超兵器であらゆる反乱に終止符を打ち、銀河系の住民にバトル・ステーションの能力を周知させ、帝国の報復攻撃に対する恐怖心を人びとに植え付けようと計画していた。
横幅 160キロメートル
武装 スーパーレーザー
トラクター・ビーム発生装置 (768基)
ターボレーザー砲台 (15,000基)
数千の固定砲台
積載 TIE/ln制宙スターファイター
乗員 帝国宇宙軍及び地上軍兵士 (342,953名)
ストームトルーパー (25,984名)
役割 惑星破壊バトル・ステーション
所属 銀河帝国
破壊 0 BBY、ヤヴィン星系
指揮官 グランドモフ・ウィルハフ・ターキン
別名/偽名 DS-1プラットフォーム
センチネル基地
究極兵器
デス・スター(出典:ウーキーペディア「デス・スター」)
一言では言い表せませんが、あえていえば「惑星一つ破壊可能な空母」といったところでしょうか。
宇宙条約とは?
宇宙条約は「宇宙の憲法」とも呼ばれ、宇宙活動に関する基本的なルールを定める条約で、以下の内容を定めています。
宇宙活動の自由(1条)
宇宙空間・天体の領有禁止(2条)
平和利用原則(3条、4条)
宇宙飛行士の救助・宇宙物体の返還(5条、8条)
国際的責任・継続的監督(6条)
損害賠償責任(7条)
環境汚染防止(9条)
宇宙条約は、1966年に採択(翌年発効)された法的拘束力のあるハードローとして、現在109か国が加盟しています。各項目については以下の記事でもまとめていますので、ご覧ください。
以下、デス・スターと宇宙条約との関係について検討していきます。
宇宙空間領有禁止ー「取得」の定義?
宇宙条約2条は、以下のように宇宙空間の領有禁止について規定しています。
月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によつても国家による取得の対象とはならない。
デス・スターは直径160kmで、当初はオルデランの軌道に配置されていました。
そうすると、当該軌道についてはデス・スターによって占拠されてしまうと考えられ、銀河帝国は、「宇宙空間」の一部を取得したと考えられます。
ところで、軌道に限らず、デス・スターに搭載されている兵器「スーパーレーザー」の射程範囲内では服従もやむを得ません。現に、レイア・オーガナの故郷オルデランはスーパーレーザーの犠牲となっています。
そのため、直接的に「取得」しておらずとも、少なくともスーパーレーザーの射程範囲に入った宇宙空間については「取得」したといっても過言ではなく(銀河帝国以外はその範囲での自由な宇宙活動が制限されるでしょう)、相当な広範囲にわたって宇宙空間を領有することが可能となるでしょう。
平和利用原則ー「究極兵器」である点をどう評価するか?
宇宙条約3条、4条は、以下のように宇宙空間の平和利用について規定しています。
第3条
条約の当事国は、国際連合憲章を含む国際法に従つて、国際の平和及び安全の維持並びに国際間の協力及び理解の促進のために、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における活動を行なわなければならない。
第4条
条約の当事国は、核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によつてもこれらの兵器を宇宙空間に配置しないことを約束する。
月その他の天体は、もつぱら平和的目的のために、条約のすべての当事国によつて利用されるものとする。天体上においては、軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験並びに軍事演習の実施は、禁止する。科学的研究その他の平和的目的のために軍の要員を使用することは、禁止しない。月その他の天体の平和的探査のために必要なすべての装備又は施設を使用することも、また、禁止しない。
デス・スターは「究極兵器」ですから、平和利用原則との関係が最も重要と考えられます。
まず3条との関係ですが、そもそもデス・スターの役割は「惑星破壊バトルステーション」とされています。
銀河帝国は、「デス・スターによってあらゆる反乱に終止符を打ち、銀河系の住民にバトル・ステーションの能力を周知させ、帝国の報復攻撃に対する恐怖心を植え付けようという計画を立てていた」わけですから、そもそもデス・スターの建造行為自体が「国際の平和及び安全の維持並びに国際間の協力及び理解の促進のため」の活動とは到底いえません。
また、4条前段との関係では、デス・スターが「核兵器」といえるか、あるいは「核兵器」を搭載している物体といえるかが問題となりますが、主砲であるスーパーレーザーの動力については以下の解説がなされており、「核兵器」には該当しないと考えられます。
スーパーレーザーはハイパーマター・リアクター(超物質反応炉)から動力を供給され、巨大なカイバー・クリスタルでエネルギーを集束させていた。
スーパーレーザー(出典:ウーキーペディア「デス・スター」)
しかし、その威力は惑星一つ破壊できるほどのものであり、「大量破壊兵器」であることは明らかです。15000基のターボレーザー砲台、数千の固定砲台を搭載していることからしても、デス・スター自体が「大量破壊兵器」に該当するとみて間違いなさそうです。
さらに、4条後段との関係でも、帝国宇宙軍と地上軍の兵士が34万2953名、ストームトルーパー 2万5984名が常駐し、TIE/ln制宙スターファイターの発着陸地点としての機能を持っていることからしても、設置が禁止されている「軍事基地、軍事施設及び防備施設」に該当するといえるでしょう。
登録義務ー搭載物も宇宙物体か?
宇宙条約8条は、以下のように規定し、宇宙物体の登録について定めています。
宇宙空間に発射された物体が登録されている条約の当事国は、その物体及びその乗員に対し、それらが宇宙空間又は天体上にある間、管轄権及び管理の権限を保持する。宇宙空間に発射された物体(天体上に着陸させられ又は建造された物体を含む。)及びその構成部分の所有権は、それらが宇宙空間若しくは天体上にあること又は地球に帰還することによつて影響を受けない。
この規定を具体化するのが宇宙物体登録条約です。
宇宙物体登録条約では、「宇宙物体」について「宇宙物体の構成部分並びに宇宙物体の打上げ機及びその部品を含む」と定義されています。
これだと定義としてやや不明確なところがありますが、条約批准国それぞれの国の法律には、「宇宙物体」について定義しているものもあります。
例えばオランダの宇宙活動法では、「宇宙空間に打ち上げられた、又は打ち上げられる予定の物体」とされ、中国の宇宙物体登録管理弁法では、「宇宙空間に進入する打ち上げられた人工衛星、有人宇宙飛しょう体、宇宙観測装置、宇宙ステーション、打上げ手段とその部品、及びその他の人工物体」と定義されています。
これらの定義規定からすると、デス・スター自体が「天体」と評価されない限り宇宙物体に該当することは明らかでしょう。
また、搭載されているスーパーレーザー、トラクター・ビーム発生装置、ターボレーザー砲台なども「宇宙物体の構成部分」として宇宙物体に該当するといえそうです。
他方、デス・スターには主兵器のスーパーレーザー、768基のトラクター・ビーム発生装置、15000基のターボレーザー砲台、数千の固定砲台が搭載されていますが、これらがそれぞれ別の宇宙物体として評価される可能性もあります。
実際に、宇宙資産を担保としたファイナンスについて定める宇宙資産議定書が草案された段階では、アメリカは、「衛星自体(衛星全体)を担保の対象とする場合もあれば、搭載されているトランスポンダ(電波中継機器)をも対象とする場合もあるので、いずれの場合も登録ができるようにしておく必要がある」と主張しました。
この考え方に対しては批判もあり、例えばドイツは「衛星全体が宇宙資産となるのかトランスポンダ単体も宇宙資産となるのかケースバイケースになってしまい、「物」の概念がよくわからなくなる」と批判しました。
つまり、宇宙物体とはいっても、何をもってこれにあたるとするか評価が別れることもあるということです。
なお、そもそもデス・スターが宇宙物体ではなく「天体」と評価された場合には、宇宙物体の定義から外れるので登録の対象とはなりません。
しかし、建造中の段階では「宇宙物体」として宇宙5条約の適用を受けていたにもかかわらず、いざ宇宙物体として完成すると突如「天体」となり条約の適用を受けなくなるというのは不自然です。
少なくともエピソード6に登場する建造中の第2デス・スターは「天体」に該当しないように思えます。
建造中の第2デス・スター(出典:ウーキーペディア「デス・スター」)
環境汚染禁止ーデブリ化防止策が甘い?
上記のように「究極兵器」と称するデス・スターですが、以下の致命的な欠点があります。
デス・スターの表面にある小さな排熱孔にプロトン魚雷を撃ちこみ、中央の反応炉を攻撃すれば、連鎖反応でデス・スター全体を破壊することが出来ることが分かったのである。
出典:ウーキーペディア「デス・スター」
つまり、プロトン魚雷という大型のミサイルを特定の場所に撃ち込めば、デス・スター全体を破壊できる可能性があることがわかったのです。それゆえ、帝国軍はデス・スターの設計図が反乱軍の手に渡ることを恐れていました。
プロトン魚雷は反乱軍の戦闘機Xウイング・スターファイターに搭載することが可能で、早速、「デス・スターの排熱孔に続くトレンチ(溝)に沿ってXウイングで突入し、プロトン魚雷を発射する」という作戦が立てられました。
ここで、宇宙空間の環境保護について定める宇宙条約9条をみてみましょう。
第9条(抜粋)
条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染及び地球外物質の導入から生ずる地球の環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施し、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。
宇宙条約9条との関係でよく議論されるのはスペースデブリです。
6月21日に採択された宇宙活動に関する長期持続可能性ガイドラインでも、「スペース・デブリ監視情報の収集,共有及び普及の促進」、「長期的なスペース・デブリの数を管理するための新たな手法の探査及び検討」として、スペースデブリをめぐる項目が規定されています。
スペースデブリの低減については2つのガイドラインがあり、そのうちIADCスペースデブリガイドラインには、以下の記載があります。
5.2.2 運用フェーズでの破砕の可能性の最小化
宇宙システムの設計の間は,各プログラムやプロジェクトでは、FMEA(故障モード及び影響解析)あるいは他の同等の解析手法を用いて、破砕事故に結びつく故障モードが無いことを実証すること。もしそのような故障が排除できない場合は、設計や運用手順でそのような故障の発生の確率を最小化すること。
確かに、IADCスペースデブリガイドライン上は「破砕事故に結びつく故障モードがないこと」、「設計や運用手順でそのような故障の発生の確率を最小化すること」が求められているのみであり、構造(ハード面)については何ら言及されていないようにも思えます。
しかし、構造的に大規模でしかも致命的な破砕の可能性が残されているとなると、ガイドラインの趣旨に適うとはいえないと考えられます。
これを前提にすれば、そもそもプロトン魚雷を撃ち込まれるような位置に排熱孔を設けるべきではなく、デス・スターにはデブリ発生防止の観点からみた設計上の欠陥があったといわざるを得ません。仮に攻撃されたとしても、少なくとも連鎖的な破壊を食い止める構造としておく必要があったと考えられ、デブリ発生防止措置という意味では全く対応できていない構造だったといえそうです。
まとめー色々と無理がありそう
以上のとおり、宇宙条約との関係で問題となりそうな点を検討してきましたが、デス・スターの建造と運用には、案の定、多くの課題があることがわかりました。
しかし、その課題を乗り越えたところで惑星一つ滅ぼせる「究極兵器」ができてしまうわけで、銀河帝国以外の人類からすれば何ら価値をもたらすものではありません。
仮に建造するとなれば、宇宙条約批准国でないことを前提に、また、他の批准国を敵に回しつつ、自国のリソースのみで頑張って建造することになりそうです。