3分でわかる打上げ国
なぜ重要か?
宇宙損害責任条約2条は、ロケットなどの事故によって地表で損害を発生させた場合、「打上げ国」が無過失責任を負うと規定しています。
したがって、打上げ国がどこなるかは非常に重要です。
宇宙損害責任条約1条(c)、宇宙物体登録条約1条(a)は、「打上げ国」を以下のように規定してます。
①宇宙物体を打上げ、又は行わせる国
②宇宙物体が、その領域又は施設から打上げられる国
これを分解して整理すると、
①-a 宇宙物体を打ち上げる国
①-b 宇宙物体の打上げを行わせる国
②-a 宇宙物体がその領域から打ち上げられる国
②-b 宇宙物体がその施設から打ち上げられる国
宇宙物体の打上げを行わせる国
上記のうち、①-bには若干の論点があります。
条約作成中、打上げを委託して、打上げ費用を支払う国を「打上げを行わせる国」と呼ぼうと議論されていました(宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版p50)。
A国がB国に依頼して、A国の衛星をB国からB国のロケットで打ち上げる場合、A国は「宇宙物体の打上げを行わせる国」となり、B国は「宇宙物体がその領域又は施設から打ち上げられる国」となります。
では、依頼するのがA国自体ではなくA国の民間企業だった場合、A国は打上げ国となるのでしょうか。これについては、現在、確立した解答はありません。
宇宙物体登録条約1条(c)は、「登録国」を「宇宙物体が登録されている打上げ国」と定義しており、宇宙物体の登録を行っていればその国が打上げ国となります。しかし、全ての国の全ての宇宙物体が登録されているわけではありません。
打上げ国の増加と被害者救済
打上げ国の増加は、仮に事故が発生した場合に責任を負う国が増加することを意味するので、被害者の救済に役立ちます(責任を負う国が多い方が選択肢が増える)。
しかし、宇宙条約作成中に「打上げを委託して、打上げ費用を支払う国」を「打上げを行わせる国」と呼ぼうという議論を重視すれば、打上げプロジェクトに「能動的かつ実質的に参加する国」という要素が重要であり、私企業の打上げは国の関与が乏しいので、「打上げを行わせる国」に当たらないという議論も成り立ちます(宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版p51 NASA法律顧問見解)。この場合、保険の加入を義務付けることで被害者救済は可能であると言います。
いずれにしても、民間企業が海外で打ち上げた場合の問題は残されたままです。
参考:
・日本の宇宙戦略 青木節子
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦