「キッズ訴訟」全記録Ⅱ④デジ田交付金の申請に係る事前相談
デジ田交付金の申請について宮城県復興局からの助言は、主に電子メールで行われていたようです。
11月11日、名取市政策企画課から宮城復興局参事官に宛てて、次年度の地方創生推進交付金の申請に向けた相談を進めたい旨のメールが送られました。
このメールに添付されたという「事業概要の資料等」が、Ⅱ③で参事官から送付を求められた「別添資料」のことでしょう。
次に参事官から返信があったのが、12月8日と思われます。
この電子メールで、内閣府本府から宮城復興局へ送られたコメントを名取市と共有しつつ、参事官が独自にコメントを挿入しているように読み取れます。
内閣府からのコメント①では、「先駆タイプ」は採択のハードルが非常に高いことを説明し「横展開タイプ」でも最長5年間の事業計画に延長することが可能となっているため、申請タイプを再考するよう促しています。
先駆タイプとは、先駆性が高く最長5年間の事業を対象とする補助で、国費負担上限額は2億円、補助率は1/2です。
横展開タイプとは、先駆的・優良事例の横展開を図る最長3年間の事業を対象とする補助で、国費負担上限額は0.7億円、補助率は1/2です。
これらを含む3つのタイプから、各自治体が事業の規模や内容に合わせて選択することになっています。
キッズ事業が当初は先駆タイプを目指していたことは、これまでの開示資料には見えていませんでした。
口頭での相談の中で、そのような話があったのではないかと思われます。
メールでは参事官からも、横展開タイプへの変更を検討するよう助言されています。
内閣府からのコメント②では、2つの民間事業者との連携協定を締結し、事業を実施する名取市の考えに対し、契約締結の時期と、経費内訳について確認が求められ、計画書作成にあたっての留意点が示されています。
「2つの民間業者との連携協定を締結」という手法について、いつ、どのように決まったのかが分かりません。
おそらく、11月9日に行われた打合せで配布された資料の中で、非開示とされた部分に、そのことが書かれていると思われます。
参事官からは、どの部分に交付金を充てるのかを明確にするよう助言されています。
また、実施計画書にストーリー性を持たせるため、一緒に考えていこうと激励されています。
最後に、たたき台の段階でもよいので実施計画書を見せてほしいと求められていますが、これも参事官からの言葉でしょう。
たたき台として作成された実施計画書と思われる資料は、①提出事業一覧表、②(別紙1)実施計画、③地域再生計画、④(別紙9)インセンティブシート、⑤(別紙10)自己点検シートの5つに大きく分けられます。
①の提出事業一覧表の中で、キッズ事業は「横展開型」とされています。
②(別紙1)実施計画で着目したいのは、2ページにある「4.交付対象事業の背景・概要」です。
AからDまでが「ストーリー性」を持たせることが必要と助言された項目です。
申請までの修正の経緯を確認するため、全部抜き出しておきたいと思います。
A.地方創生として目指す将来像(交付対象事業の背景)
全国的な人口減少社会に突入している中、本市は名取市第六次長期総合計画において、令和12年には85,000人という目標を掲げ各種施策に取り組んでいる。しかし、年少人口及び生産年齢人口が計画値に対してマイナスの乖離が拡大傾向にあることから、将来的な労働力の低下やコミュニティの衰退につながることを危惧している。この問題を解決し、子育て世代が本市で子どもを育てたいと思っていただける、「子育て・教育先進地」に向けた取り組みが重要であると考え、学校給食費の段階的無償化や子ども医療費助成の拡大など各種施策に取り組んでいるとともに、シティプロモーションを段階的に①知名度向上、②交流人口・関係人口の拡大、③移住・定住の促進というステップを踏みながら、首都圏を中心とした子育て世帯に向けた知名度向上を図るためのプロモーション活動を展開している他、市内在住者向けには、定住を促進させるため、愛着形成につながる施策を展開している。
そのような中、全国各地では地域の特色を活かした地方創生事業が展開されており、更なる地域資源を活用した「子育て・教育先進地」に向けた取り組みが必要である。「子育て・教育先進地」の取り組みをより一層強化させるため、特色ある子育て施策として、東日本大震災から復旧を果たした名取市サイクルスポーツセンターを活用しながら、子どもたちの夢を行政と民間が連携しながらサポートする仕組みを創り上げることで本市の知名度向上、交流人口・関係人口の拡大、移住・定住の促進を目指すとともに、本市で育った子どもたちの、愛着形成につなげることを目指すもの。
B.地方創生の実現における構造的な課題
「名取市サイクルスポーツセンター」には、市内外から週末を中心に多くのキッズライダーが訪れており、東京オリンピックにおけるスケートボード競技の盛り上がりにより、本市の名取市サイクルスポーツセンターにもスケートボードに親しむ子ども達が多くなり、これまで以上にスケートボード競技の機運が醸成されている。この機運を一過性のものではなく、持続的なものとし、スケートボードをしていない子どもたちにも広く普及させられるかが課題である。また、名取市サイクルスポーツセンターは、1周約4㎞の東北地方唯一のサイクリング専用施設で、サイクリングを楽しむ一般利用者のほか、クリテリウムなど自転車競技の大会や自転車競技部の合宿など、老若男女、経験・未経験問わず広く利用され、自転車というキーワードが本市にも少しずつ根付いてきている。この自転車を活用した交流人口・関係人口の拡大、移住・定住につながる施策をどのように展開するかが課題である。
C.交付対象事業の概要
スケートボード競技のオリンピック出場を目指している小学生を対象に、体力・運動能力に優れた人材を発掘し、児童の発達段階に応じた計画的・継続的な育成を図る事業で、「発掘」「育成」「活かす」の3本柱で構成される。
「発掘」とは、小学3~4年生を対象に選考会を名取会場と東京会場で開催し、体力・運動能力の他に、競技の技術性や子どもたちの人間性などを総合的に判断し「なとりスーパーキッズ」として数名認定。選考会は2年に1回の開催を予定しており、第2期以降は自転車競技の児童の募集を行う方向で調整する。「育成」とは、なとりスーパーキッズとして認定された児童を競技のスキル、パーソナルトレーニングなど民間企業と連携しながら、将来的に世界に通用するアスリートを育成するプログラムの提供や各種大会への出場を支援する。育成期間は中学3年生まで。「活かす」とは、NATORI CUPという小学生から中学生を対象としたスケートボード競技と自転車(ロード)競技の独自大会やイベントを開催し、本市にスケートボード競技及び自転車競技の機運の醸成及びスケートボード競技及び自転車競技のすそ野の拡大を図り、交流人口・関係人口の拡大のほか、子どもたちの本市への愛着形成、最終的にはアスリートを目指す子どもたちの聖地化を目指す。
D.交付対象事業が構造的な課題の解決に寄与する理由
移住・定住につなげるためには、子どもの頃に住んでいた街でどのような体験ができたのか、住んでいたことに誇りがあるかというシビックプライドも重要な要素である。本プロジェクトは、全国にいるアスリートを目指す子どもたちに本市に移住してもらい、本市において充実した育成プログラムを体験することで本市への愛着形成が醸成されるものと捉えている。また、認定されたスーパーキッズが活躍することで、本市の子どもたちにも、スケートボードや自転車競技が普及するものと捉えている。また、スケートボード競技と自転車競技の各種大会やイベントを開催することで、大会に参加する子どもたちやその保護者など、多くの方が本市を知るきっかけにつながり、知名度向上、交流人口・関係人口の拡大に寄与するものと捉えている。
たたき台の段階であるとしても、似たようなフレーズを繰り返しが多く、ストーリー性以前の本来的な問題が見えるのではないかと思います。
Aは名取市が目指す将来像を記入する欄ですが、将来像に当たる「子育て・教育先進地」というイメージは記入されているものの、これまでの施策の実績ばかりが並べられ、将来の具体的なビジョンは示されていません。
Bは構造的な課題を記入する欄ですが「どのように展開するかが課題」というのは構造的課題ではありません。
そもそも名取市は人口が微増しており、他自治体より恵まれている状況です。
しかし、Aにあるように年少人口及び生産年齢人口は伸び悩んでいます。
こうした現状に潜む構造的課題を記入しなければならないはずです。
Cは、これまでと大きく変わりません。
Dは、そもそもBの構造的課題が的確に設定されていないため、記入するのは不可能です。
結局は精神論になってしまっています。
5ページにある「インセンティブ活用」とは、企業版ふるさと納税併用事業において、地方負担分へ充当する寄附(見込)額が一定以上であることを意味します。
たたき台の時点では、寄附見込みありとしつつ、特定企業と交渉中と記載されています。
金額は1年目と2年目、それぞれ1年間あたり1,000万円とされています。
11ページを見ると、企業版ふるさと納税について「特定企業と既に調整済みで実現の可能性は非常に高い」と書かれています。
こちらは6年目まで毎年1,000万円の収入を見込んで記載されています。
なお、横展開型の事業期間を最長5年間に延長する場合、④(別紙9)インセンティブ活用申請シートを提出しなければなりません。
企業名を記入する欄は黒塗りとなっています。
③の地域再生計画は、内閣総理大臣から認定を受けるもので、デジ田交付金(地方創生推進タイプ)を受ける際には、地域再生計画に記載されている事業であることが条件とされています。
実施計画(A~C)と地域再生計画との関係については、Aが4-2、Bが4-1、Cが5-2③と同一文章となっています。
実施計画Dにあたる項目はありません。
4ページの数値目標、10ページの外部組織の参画者などの項目は、非常に無理のある内容となっています。
キッズ事業に市内の高校や大学、社会福祉法人などがどのように関われと言うのでしょうか。
とにかくキッズ事業を実施することが目的化してしまっており、交付金の申請をするために書けるものはなんでも書いておこうという無理矢理感が伝わってきます。
さて、12月23日、令和5年度デジ田交付金に係る実施計画等の作成及び提出について、内閣府からの事務連絡が宮城県により転送されました。
事前相談受付期間は令和4年12月23日から令和5年1月13日まで、実施計画の提出期間は令和5年1月23日から1月25日までとされました。
また、インセンティブシートのについては、企業から確約を得た上で、令和5年3月6日まで提出することとされました。
さらに12月26日、御用納めが迫る中で、国から実施計画書等の作成及び提出について依頼がありました。
宮城復興局が窓口となります。
名取市からも事前相談を申し込んだと思われますが、事前相談がいつ行われたのか定かではありません。
なお、事前相談への回答が返ってきたのは、令和5年1月13日です(詳しくはⅡ⑤で検証します)。
市議会に対して初めて説明がされた議員協議会は1月12日の開催でしたから、その説明の内容は未完成のものだったということになります。
議会からの意見を反映させるにしても、最終〆切まで約2週間しか残されていません。
なにより、交付金申請のスケジュールについて「国庫補助は国と調整中でありますので、御了承願いたいと思います」としか説明しなかった対応は、不適切ではなかったかと思います。
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