「キッズ訴訟」全記録⑤6月定例会開会・補正予算上程
6月8日、名取市議会6月定例会が開会しました。
会期は、開会日から6月21日までの14日間に決定しました。
一般市政報告と、それ対する質疑が終わり、市長から議案提案理由の説明が行われました。
上程された「議案第56号 令和5年度名取市一般会計補正予算(第4号)」に、キッズ事業の予算が含まれています。
これら資料からだけでは、令和5年度にキッズ事業に充てられる正確な額は読み取れません。
事項別明細書13ページの地方創生事業、3,002万円の一部であることを読むのが精いっぱいです。
ただし次年度以降の事業費については、議案書5ページの債務負担行為に、令和6年度から令和11年度まで、2億2,800万円が措置されることが明記されています。
自治体の会計は原則として単年度会計ですが、次年度以降に支出の義務が生じる経費などを債務負担行為として議決することになっています。
それにしても莫大な額です。
移住定住の要件を定めて支援金として現金を支給すれば、より多くの移住定住につながると思うのですが…
毎年6月の定例会においては、補正予算は最終日の本会議で審議されるのが通例となっています。
最終日は6月21日ですので、それまでにどのような対応を取るかを決定し、キッズ事業反対の声を一つにまとめなければなりません。
ここで補正予算について説明しておきます。
本来は1年間のお金の流れを決めた当初予算の中で、全ての収入と支出が行われるのが理想ですが、年度の途中で国や県からの補助金等が変動したり、緊急でやむを得ない支出が必要になることがあります。
そのような場合、歳入と歳出それぞれ変更となる項目ごとに増減し、入りと出の全体の額をそろえて補正し、次の予算執行に備えることになります。
市議会で予算の採決に当たる際には、やっかいなルールがあります。
「特定の事業にだけ反対」ということが、原則として出来ません。
この4号補正で、ほかの予算は認めるがキッズ事業だけ反対するということは出来ないのです。
特定の事業への反対の意思を示したり、実際に事業をストップさせたりするためには、主に以下の手法が考えられます。
補正予算を否決
予算の修正
予算の組替
予算執行留保の附帯決議
補正予算へ賛成し、反対する項目については討論で指摘
執行部が自主的に執行しない
採決において反対が多数となれば、補正予算は否決され、執行できなくなります。
全ての予算執行がストップしてしまうため、市政運営は大混乱に陥ってしまいます。
一義的な責任は反対される予算を提出する執行部にあるとも言えますが、この手法では他の議員の理解を得るのは難しいため、採用できません。
予算の修正は、修正案を提出し、原案と修正案のそれぞれに対する採決を行います。
修正案が可決した場合、執行部はそれに従わなければならなくなります。
キッズ事業に当たる部分だけを修正して提出するとした場合、2つのハードルを越えなければなりません。
まず、どの項目がキッズ事業に当たるのか、正確に割り出して正しい金額を減額修正しなければなりません。
また、歳出が減額されるなら、同じ額を歳入から減額しなければなりません。
歳入と歳出は補正において同額である必要があります。
財源は歳入のどの項目で措置されているのか、項目ごとの金額はいくらなのか、それらを正確に把握しなければなりません。
こうしたことを質疑して確認することは可能ですが、質疑が終われば直ちに討論・採決と進むため、修正案を作成する時間がありません。
したがって、修正案の提出も実現可能性は低く、採用はできません。
予算の組替は、動議を行い、市長に自主的に予算編成のやり直しを求めるものです。
動議が可決すれば、原案が可決する可能性が低くなるため、市長が自ら修正案を提出するなどの対応をとることが考えられます。
修正案の提出と同じくらいハードルが高く、やはり採用することは出来ません。
「討論」とは、議案に賛成・反対する理由を述べる場です。
全ての議案に対して行っていては時間を取られるので、主に当初予算、反対する議案、賛否が分かれる議案などで討論が行われることが多いようです。
また、議案の一部に賛成できない部分がある場合、その部分だけ厳しく指摘しつつ、議案そのものに賛成することもあり得ます。
ただ、いくら厳しい討論を行っても、議案が通ってしまえば何事もなく執行されます。
ただ意見を言って終わり、というに等しい手法ですので、反対の本気度が高いキッズ事業については、採用することはありません。
執行部が自主的に執行しないケースもあります。
ただし、絶対に可決が見込まれないような場合に限り、有効な手法です。
要は、否決されれば提案者のメンツがつぶれてしまうため、形として可決させてはおくが、実際には事業実施を見送らせます。
名取市議会でも過去にあったそうですが、公開の場での記録には残らない密室での取引にも似た手法であるため、個人的には好みません。
そもそも補正予算の可決はほぼ間違いなく、執行部にそのような判断をさせるまでの流れにはなりません。
予算執行留保の附帯決議は、法的拘束力はないものの、一部の事業に限った予算の執行を止めるのに有効とされています。
「決議」とは、政治的効果をねらい、議会の意思を対外的に表明するために行われる議決のことです。
不信任決議、辞職勧告決議、問責決議などがあります。
ほかに、名取市議会では「宮城県立がんセンターの名取市内での存続と医療機能の充実に関する決議」などが可決されたことがあります。
また、「附帯決議」は決議の種類の一つで、可決された案件に対し、事業を執行する上での要望や留意事項を述べるために提出されるものです。
法的拘束力はないものの、補正予算の一部にはっきりと反対の態度を表明できることと、案文の作成の時間が十分に確保できることが、有利な点です。
また、修正案のように執行そのものを認めないのではなく、条件を提示して改善の余地を残すことが出来る点で、執行部に配慮したものと言えます。
予算執行留保の附帯決議を提出する方向で、キッズ事業への反対の声をまとめることとなりました。
名取市議会でこれまでに予算執行留保の附帯決議が提出された例は、平成16年2月定例会、平成17年2月定例会の2回しかありません。
前例が少なく、反対派の中には過去の同様ケースを経験した議員がいないことから、案文の作成だけではなく、提出までの手続についても、まず頼れるのは議会事務局となります。
しかし議会事務局に相談すれば、反対派の動きが執行部へ漏れてしまう恐れがあります。
もしそのようなことになれば市長が警戒し、中間派の議員に対し、賛成するよう説得工作することが考えられます。
よって、賛成派や職員に覚られないよう、議会運営の専門書などを参考に手続きを確認し、同時に案文作成を進めました。
議員協議会における質疑と、議員間の会話などで、絶対反対派の議員は私を含む3名であることが見えていました。
絶対に賛成すると予想される議員は4名でした。
名取市議会の定数は21名です。
議長を除く20名で採決するため、附帯決議を可決させるためには、少なくともあと8名の協力が必要です。
反対派の3名は、それぞれ別会派に所属しているため、まずは所属会派内部で反対者を募り、ある程度反対者の数を集めてから、それ以外の会派に働きかけることとなりました。
一般質問や常任委員会などをこなしながら、最終日に向けて協力者を募りました。
意思疎通が難しい会派もあるため、採決の際にどちらが多数となるかは見通せませんでした。
議会事務局は、予算執行留保の附帯決議を提出する動きがあることを、最終日の前日には把握していたようです。
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